チョコレートの香り
ストーリー 小野田隆雄
出演 久世星佳
帰りこぬ 昔を今と 思い寝の
夢の枕に におうたちばな
もう帰ってくることのない
あなたと過した楽しかった日々を
思い出しながら眠ったら、
初夏(はつなつ)の短い夜の夢に
あなたが戻ってきてくれました。
けれど、うれしさに目覚めて気がつくと、
枕元になんとなく
たちばなの香りが
ただよっていたのです。
帰りこぬ 昔を今と 思い寝の
夢の枕に におうたちばな
この歌は、平安時代の
神さまにつかえていた女性の歌です。
ですから恋をしたとしても、
きっと秘められた恋だったのでしょう。
神さまにつかえる女性は、
人間の男に恋をしては
いけなかったのです。
この歌をミルクチョコレートに添えて
あなたに贈ります。
あなたは、もう忘れているでしょうね。
三十年も昔のことですもの。
中学一年生の私を
高校一年生のあなたが、
伊豆のみかん山に連れていってくれた日。
学生服のポケットから
ミルクチョコレートを出して
歩きつかれた私に、半分くれた。
それは、どきどきするほど甘かった。
隣の家の生意気なお兄さんが、
初恋のひとになりそうだったのに、
あなたの家は鹿児島に引っ越してしまって、
二、三度、桜島の絵ハガキが届いたきり。
そして、今年のお正月、
おどろいたなあ。
あなたが高校のサッカー部の監督になって、
全国大会の決勝に出てくるなんて。
だから、なつかしさをいっぱい、
ミルクチョコレートをいっぱい、
高校の住所に贈ります。
サッカー少年たちにあげてください。
そして歌だけは、あなたに贈ります。
私のこと?
広告代理店につとめています。
そうですねえ、
ギリチョコ贈る相手なら、
たくさん、いますけどね。
*出演者情報:久世星佳 03-5423-5905 シスカンパニー