2022年06月19日
若杉茜
雨のはなし 3 『サマセット・モームの雨』
サマセット・モームの傑作短編小説、『雨』。
雨季のサモアを舞台に、
狂信的なイギリス人宣教師と、
同じ宿に滞在している女との関わりが描かれる。
女は毎晩のように客を取っており、
宣教師は女が娼婦であることを知って教化に乗り出す。
しとしとと降るイギリスの雨とは違い、
ときには恐ろしいほどの大音量で暴力的に降り注ぐサモアの雨。
小説には頻繁に雨の描写が登場し、
降り続ける雨は女を導こうとする宣教師の信仰や理性を
蝕んでいく。
物語の中の医師は言う。
「雨は、人を不安にさせ、恐れを抱かせるに十分なものだ」
雨は悲しみや悲しみに通じる美しさとして描かれることが多い。
だがときには、雨の持つ恐ろしさへと誘われてみるのも、
一つの楽しみかもしれない。
サマセット・モームの「雨」は1932年に映画化もされている。