2022年09月03日
佐藤日登美
海 ボトルメール
見知らぬ誰かがきっと見つけてくれると信じ、
海へ投げ込まれるボトルメール。
英語では”Message in a bottle”と呼ばれ、
その名の通り「瓶に入れられた手紙」のことである。
海や川へ流され、波間を漂いながら行き先のわからない旅へと出る。
あるボトルは、ギリシャの哲学者によって海へと放たれた。
それは紀元前310年のことで、世界最古のボトルメールと言われている。
海流の流れを研究するための実験だったが、
瓶自体はいまだに行方知らずだ。
あるボトルは、18世紀に日本の船乗りによって海へと放たれた。
彼と43人の乗組員たちは宝探しの航海へ出たが途中で船が難破、南大西洋の島に漂着した。
食料も水も果て、死ぬ間際の船乗りはココナッツの木の断片に旅の記録を書き、瓶に託した。
100年の時を経て、ボトルは彼の故郷の海に流れ着いた。
あるボトルは、第一次世界大戦中にイギリス兵によって海へと放たれた。
それは愛する妻への手紙が入ったジンジャエールの瓶だった。
兵士はその二日後に亡くなってしまうが、
85年後、彼の手紙はテムズ川の漁師が発見することとなる。
妻も亡くなった後だったが、存命だった娘へと届けられた。
ボトルの中身は一本一本異なるが、
送り主の一瞬の思いが込められていることに変わりはない。
この瞬間も、当てのない旅に出た瓶が海を渡っているのだろう。