2022年10月29日
川野康之
懐かしい友ロバート・バーンズ 乗鞍とスコットランド
『バーンズ詩集』を出版した後も
中村為治は教壇に立ち続けた。
45歳になった時、ぷつりと教師を辞めた。
東京を離れ、乗鞍の山奥に移り住んだ。
土地を開墾し、種蒔きから始めて自給自足の農業に没頭した。
厳しい山の自然の中で、土と格闘を続けた。
この地を「乗鞍独立王国」と名付けた。
王国の国花をスコットランドと同じアザミに制定したという。
生活は苦しかったが、為治は乗鞍を離れなかった。
バーンズと同じ貧しい農夫として残りの人生を生きた。
為治がかつて教室でよく歌っていたのは、
『My heart’s in the Highland』。
『バーンズ詩集』にも納められている。
もちろん為治の訳である。
我が心はハイランドにあり、我が心は此処にあらず。
我が心はハイランドにありて鹿を追う。
乗鞍に住みながら、
ハイランドの風景を重ねて見ていたのだろうか。
我はバーンズを愛す。
彼は偉大なる人物にてはあらざるべし。
されど決して下劣なる男にてもあらず。
『バーンズ詩集』の序文にこう書いた中村為治は、
死ぬまでロバート・バーンズを心の友として生きた。