Team MOMENT

2023年01月07日

執筆者佐藤理人

Photo by Barry Davis

「ウォーリス・バッジ」 いちばん欲しかったもの

大英博物館の考古学者ウォーリス・バッジ。
彼は1924年、67才で退職するまでの約40年間で、
エジプトの文化遺産を4万点、メソポタミア関連を5万点集めた。
その横暴な収集方法への批判に対し、彼は自伝でこう反論した。

ミイラの略奪者はエジプト人自身だ。
盗掘商人が墓から持ち出したミイラを、
我々が買わなければ、ミイラは焼かれてしまう

1934年、脳血栓でこの世を去るまでバッジは、
世界でもっとも安全な大英博物館で保護され展示されることこそ、
文化遺産と世界中の人々にとって幸せだと信じていた。

ところが1998年、ある事実が発覚する。
イギリスがギリシャから持ち帰ったパルテノン神殿の彫刻群。
これらは元々、鮮やかな彩色が施されていたにも拘らず、
彫刻は白であるべきという間違った美意識のせいで、
大英博物館が白く塗り替えてしまっていたのだ。

バッジたち博物館の職員は、エジプト人を原始人と呼び、
その無知に散々つけ込んだ。だが職員たちもまた、
正しい知識を持っていたわけではなかった。

大英博物館に保護されたからこそ、残せた文化遺産は多い。
しかし2010年、エジプトやインドなど古代文明が発祥した25ヶ国が、
文化遺産の返還を連携して求めていくことを宣言した。
フランスやアメリカの一部の博物館はすでに返還に応じている。

大英博物館は1753年の創設以来、一切の返還に応じていない。

執筆 佐藤理人

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