2023年04月08日
佐藤理人
忠犬ハチ公 「軍国主義とハチ」
帰らぬ主人を何年も待ち続けるハチ。
戦争に突き進む空気の中、その美談は、
当時の社会から熱狂的に迎えられた。
その人気に目をつけたのが文部省だ。
子どもたちに国家への忠誠心を植え付ける、
格好のチャンスと考えたのだ。
1935年、ハチは小学校の教科書に、
「オンヲ忘レルナ」という題名で紹介される。
ハチから飼い主・上野博士への無垢の愛情は、
国への献身と自己犠牲の精神にすり替えられた。
物語を軍国主義に利用する為政者たちに、
ハチを世に知らしめた生みの親、
日本犬保存会初代会長・斉藤弘吉は異を唱えた。
恩に報いる気持ちなどハチにはなかった。
あったのは、自分を可愛がってくれた主人への、
混じり気のない無条件の絶対的愛情だけだ。
ハチはただ大好きな博士に飛びつき、
自分の顔を思いきり押しつけて、
尻尾を振りたかったのである。
2015年3月8日、ハチの命日。
博士が勤務した東京大学農学部キャンパスに、
再会を喜ぶハチと博士の像が建てられた。
もう一度、博士に会いたい。
ハチの夢が90年ぶりに叶えられた瞬間だった。
今日、4月8日は忠犬ハチ公の日。