2024年03月09日
道山智之
1月の河 「Championship」
昨年秋、リオ・デ・ジャネイロ。
世界40カ国から各国を代表する詩人が集まり、
ポエトリースラムの世界大会が開かれた。
“World Poetry Slam Championship 2023”
日本から出場した詩人は、道山れいん。
彼は日本的な情景を故郷の方言で表現し、準決勝進出を果たした。
ローカルであるほど、個人的であるほど。
大切な感情は、深井戸のように世界中でつながっているのだろう。
人間は不可解で、そして素晴らしい。
ぼくのおばあちゃん
おばあちゃんは
母を よく泣かせていた
でも庭でたくさん花を育てていて
ぼくに小学校のヤスヨ先生に届けさせた
花を持っていくのは照れくさかった
おばあちゃんは編み物が得意で
ぼくのチョッキをほどいては編み直した
おばあちゃんのチョッキは
あったかかった
「モヘヤやけん」
ぼくは「モヘヤ」は日本語かと思った
***
電車で十五分の柳川に行ったとき
おばあちゃんだけ高い「川魚料理」をたのんだ
おばあちゃんは「かわいお」と発音した
ぼくと弟は親子丼
「あんたたちは親子丼でよかね」と決められてしまったのだ
親子丼がいちばん安かった
おばあちゃんは子どもだからわからんだろうと
考えているのがわかった
そしてぼくらのを一口食べ
「水っぽかね いっちょんおいしゅうなか」と
自分の負い目を払いのけるように店を責めた
「ぼくらにも川魚(かわいお)かうなぎを頼んでくれりゃいいのに」と
子どもごころにあきれた
***
大学生になると
おばあちゃんは毎日東京のぼくのアパートに
葉書きを書いてきた
なにげない話ばかりだった
何百枚も届いた
ある日 書いてある意味がわからなくなった
やがてくねくねした線だけになり
そして なにも書いてないはがきが届いた
最近になって
ヤスヨ先生が九十二才でお元気だと知って久しぶりにお会いした 先生は初めて聞く話をしてくださった
「家庭訪問に行ったとき
おばあさんがおっしゃったとよ
“孫がいい子に育ってよかった
夫も弟も戦争でなくしましたが
孫が元気に育ってくれて
私は幸せです”
って」
おばあちゃん。
ほんなこて・・・
お花もチョッキもハガキも、川魚(かわいお)も、
ちゃーんと届いとったとに。
なーんもわかっとらんやった。
ごめんね。
おばあちゃん。