2022年06月11日川野康之 雨のある風景 『おとうと』雨のシーンから始まる物語がある。川沿いの土手の道を、弟は傘もなく濡れながら早足で歩いている。姉が後から追いかけている。弟のかたくなな背中と、それを見つめる姉。冷たい雨が斜めに二人に突き刺さる。人生にたたきのめされながら生きる弟への愛しむ思いがせつなく伝わってくる。幸田文の小説『おとうと』は雨の中から始まる。全編を読み終わった後に思い出すのはやっぱり最初のこのシーンだ。