2022年11月20日
黒松理穂
絵のはなし ないもの
ミレイの名画「オフィーリア」。
ハムレットに拒否され、狂気の中で死んでいくオフィーリアの
悲しい最期を描いている。
しかし、彼女の口元は、微笑みともとれる表情。
その違和感が、かえって観る人の心をとらえた。
かの「モナリザ」も、優しい表情にそぐわない
荒れ果てた背景。
その違和感が、彼女の神秘性を強くした。
人間は、描かれてないものを想像できる。
ある実験によれば、顔の輪郭のみが描かれた絵を見て、
チンパンジーは輪郭線をなぞるだけなのに対し、
人間の子供は、目や口を描いた。
そこにないものに思いを馳せるのが人間。
絵の背景、言葉と言葉の間の沈黙、見えない表情。
その余白が、私たちを豊かにするのかもしれない。