2022年12月10日
廣瀬大
お酒の話 #7
「水を飲むときは水を飲みます、
ウイスキーを飲むときはウイスキーを飲みます」
レイモンド・カーヴァーの短編「大聖堂(カセドラル)」で
家を訪れた目の見えない客人がスコッチの飲み方に対して
こう述べるシーンがある。
グラスにスコッチを注いで、
ほんの一滴、水をたらして飲む流儀なのだと言う。
ウイスキーの飲み方にはストレート、水割り、オン・ザ・ロック、
炭酸水で割ったハイボールといろいろある。
レイモンド・カーヴァーの小説の登場人物のように
ストレートを正当な飲み方とする人は多いが、
どれが正しい飲み方なのか。
日本のウイスキーの父と呼ばれる竹鶴政孝は過去のコラムでこう語る。
「人それぞれ一番うまいと思う方法で楽しむべきものだと思っている」
確かに飲む頻度やその人の体質によって、
おいしいと感じる飲み方というものはそれぞれのはず。
大正時代に英国に留学し、ウイスキーづくりを学んだ竹鶴。
「熟成をじっくり辛抱して待つ精神や気質がないと決して良いものはできない」
という酒づくりの哲学を持つ彼はこうも言っている。
「飲みかたについて、もうひとついうと、楽しみながら
“時間をかけて飲む”ということだ。つまりチビチビ長く飲むこと」
これこそがウイスキーの唯一の正しい飲み方なのかもしれない。
「楽しみはできるだけ長くーそれが人生を幸せにする方法であるといえよう」
そう彼は語る。