2023年05月13日
川野康之
屋上はパラダイス 「コペル君の発見」
コペル君は叔父さんと二人で銀座のデパートの屋上に立っていた。
霧雨の中、7階建てのデパートから見下ろす東京の街は暗く、
冬の海のようだった。
吉野源三郎著『君たちはどう生きるか』はこんなシーンから始まる。
コペル君は、この街の無数の屋根の下には、
無数の人々が生きていることに気づく。
人間は世の中という広い海を漂う水の分子のようだと思った。
自分も一分子なんだ!
コペル君の発見を話すと、
「そのことはようく覚えておきたまえ。たいへんだいじなことなんだよ」
と叔父さんが言った。