2023年11月25日川野康之 函館の石川啄木 『函館港』啄木を乗せた陸奥丸は函館港に着いた。函館の文学同好会『苜蓿社(ぼくしゅくしゃ)』に事前に電報で知らせていたが、誰も港に迎えに来ていなかった。当てが外れた。途方に暮れていると、向こうから男たちが泥を跳ねながら走ってきた。苜蓿社の同人たちである。みな啄木と初対面だった。実は函館港には桟橋が二つあり、彼らは別の桟橋で待っていたのだ。新天地の仲間と出会って、啄木はやっと笑顔になった。