Team MOMENT

2023年12月30日

執筆者新井奈生

Photo by leemt2

野草の名前 #7

草木も枯れるこの時期に、
春の緑が待ち遠しくなる
小話をひとつ。

今日ご紹介する野草は、
公園のフェンスや道端の茂みなどに
よく絡みついているあれ。
のびのびとした緑のツルに、夏には釣鐘型の白い花。
フリルのついたマーメイドスカートを思わせるその中央は
赤く色づき、紅白の可憐なコントラストが
日差しによく照り映える….

その草の名は・・・
屁糞葛(ヘクソかずら)

ヘクソはご想像の通り、
おならとフンの意味。
そう、この植物は見た目に反して
強烈な悪臭を放つのだ。

だからと言って、
屁糞葛という名前はあまりにも・・・と思う人がいたらしい。
早乙女葛(サオトメかずら)という粋な別名や、
花の赤色をお灸の跡に見立てて
お灸の花で「やいとばな」と読ませる地方もあるにはあるが、
どちらも一般的までは至っていない。
あの強烈な臭いの前では同情の余地なく、
屁糞葛という名前が一番ふさわしく思えてしまうようだ。

ちなみにこの悪臭は虫除けのため、と考えられていたのだが、
ホシホウジャクやチャイロハバチの幼虫は
屁糞葛の葉を食べることが判明。
一体なんのための匂いなのか、よくわからない。

屁糞葛に関する歌もある。
出典は万葉集。高宮王(たかみやのおほきみ)が詠んだ歌。

菎莢(ぞうきょう)に延(は)ひおほとれる屎葛(くそかづら) 
絶ゆることなく宮仕へせむ

ぞうきょう、とは棘のある木のこと。
トゲトゲにも負けずに絡みつく屁糞葛のように、
宮仕えをがんばっていこう、という決意の歌だと考えられている。

およそ4500首の歌を集めた万葉集に
屁糞葛の歌はこれ一首。

執筆 新井奈生

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