2022年12月03日

執筆者奥村広乃

香りにまつわる物語 『月の香り』

人類にとって、香りとはなんだろう。

ある宇宙飛行士は言った。
月は火薬のようなにおいがすると。

しかしそれは、
月面での作業を終え、
宇宙船に戻ってからのこと。
宇宙服についていた土や埃の匂いであり、
月そのものの匂いではないのだ。

人類が月面に降り立って
半世紀あまり。
それでもまだ、
月の香りを誰もしらない。

2022年12月03日

執筆者澁江俊一

Photo by AXP Photography on Unsplash

香りにまつわる物語 『古代の香り』

人類にとって、香りとはなんだろう。

人類史に初めて登場する香りは
メソポタミアの神に捧げるものだった。

古代エジプトではファラオの亡骸に
香料をたっぷり塗って葬った。

それらはどんな香りだったのか?

想像してもわからない。
言葉にしても伝わらない。
香りほど残すのが難しいものはない。

そんな香りの儚さと、
人の命の儚さを
古の人々は
重ね合わせていたのだろうか。

2022年12月03日

執筆者澁江俊一

香りにまつわる物語 『天下の香り』

人類にとって、香りとはなんだろう。

足利義満や
織田信長、明治天皇を
夢中にした香りがある。

天下第一の香りと謳われる
東大寺の正倉院に眠る
重さ12キロほどの香木「蘭奢待」。

天下を治めた権力者たちが
たどり着く究極の香り。
長い時を超えても
今なお僅かに香りを放っている
とも言われる蘭奢待。

天下はとれなくてもいいけれど、
その香りを嗅いでみるすべは
ないものか。

2022年12月03日

執筆者澁江俊一

Photo by Sten Bergman on Unsplash

香りにまつわる物語 『香りの都』

人類にとって、香りとはなんだろう。

その街に漂う香りを求めて
世界中から旅人たちが訪れる。
人口5万に満たない
南フランスのグラース。
世界中の香水をつくる香料を
生み出す香りの聖地だ。

マリリン・モンローが
身に纏って眠ったという
あの香りもグラース生まれ。

ローズ、ラベンダー、ジャスミン、ミモザ…
香りの元となる花々も咲き誇る。
香りを求める、それだけを理由に
旅してみたい街である。

2022年12月03日

執筆者澁江俊一

Photo by Ray Kakte on Unsplash

香りにまつわる物語 『香りの未来』

人類にとって、香りとはなんだろう。

懐かしい香りを嗅いで
突然、昔の記憶が蘇る。
そんな経験が
あなたにもあるはずだ。

それは太古の人類が
森の中で獣の匂いを嗅ぎ取り
危険を回避するために
脳内の情報を一瞬で
呼び起こしていた名残
とも、いわれている。

様々な香りに満ちた森で
生きていた時代に比べたら
現代人の嗅覚はどれほど
衰えていることだろう?

それでもまだ人間には
およそ400種類もの
嗅覚受容体があるらしい。

香りをもっと上手に使いこなせば
ストレスが減ったり、よく眠れたり
仕事が捗ったり、食欲が湧いたり、
人と仲良くなれる。
まだまだ解明されていない
未知の効果もきっとあるはずだ。

写真や動画のように、
簡単にやりとりできない。
メタバース空間でも
香りまでは再現できない。
まだまだ謎も多い。
でも、だからこそ香りは
未来を変える可能性に満ちている。

2022年11月27日

執筆者新井奈生

Photo by Juli Kosolapova on Unsplash

名前 #1

日本の国名は
「日出る処の天子から・・・」
と書かれた中国宛の国書に由来するという。

しかし「日が沈む処」を意味する国が
全く別の場所に存在することはあまり知られていない。

モロッコである。

アラビア語での名称を
アル=マムラカ・アル=マグリビーヤといい、
直訳すると「日の沈む地の王国」となる。

日の出の国と、日が沈む国。
ふたつの国は今この瞬間も、太陽を通じた名前で繋がっている。

2022年11月27日

執筆者新井奈生

Photo by Alin Andersen on Unsplash

名前 #2

ダイアモンドにエメラルド。
宝石の名前は耳にも美しいが、
由来は概ね、産出地や発見者の名前、
あるいは色や形状だったりする。

が、そうでないものもある。
ティファニーストーン。
名付け親は不明であるが、
その人物は、この石の複雑なグラデーションを見て
アール・ヌーヴォー期のガラス作家、
ルイス・カムフォート・ティファニーの作品を思い浮かべた。

キラリと光る名付けの瞬間であった。

2022年11月27日

執筆者新井奈生

Photo by Bong Grit

名前 #3

この世には、誰にでもできて、
しかし高度なセンスを問われる作業がある。

ネーミングである。

1995年.
日本のとある大学の研究チームは、
イモリの雄が発する性フェロモンを突き止めた。

イモリのような脊椎動物のフェロモンは、
まだ数えるほどしか明かされておらず、
発表すれば学会は驚くに違いない。
しかし、ここで問題になるのが名前である。

彼らはイモリのフェロモンにこんな名をつけた。

ソデフリン。
元になったのは、万葉集の和歌である。
「あかねさす 紫野ゆき 標野ゆき 野守は見ずや 君が袖ふる」

男が恋した相手に袖を振るのを、
オスがメスの気を惹くフェロモンになぞらえたのである。

かくしてこの瞬間、新しい名前が誕生した。

2022年11月27日

執筆者新井奈生

Photo by Priscilla Du Preez on Unsplash

名前 #4

名前の数には、
物事に対する視点の細やかさが現れる。

例えば日本語では「牛」は「牛」だが、
英語になると雄牛はbull、雌牛はcow、子牛はcalf、総称はcattle・・・と、
異なる単語をあてる。

フランス語では軽いキスからディープなキスまで
全て異なる名前がついている。

言葉を育てた土壌が何を重んじてきたかを知る。
それは異文化を理解する瞬間でもある。

2022年11月27日

執筆者新井奈生

Photo by Eva Freude

名前 #5

絵画の巨匠・ピカソの名前は、実はとてつもなく長い。
両親それぞれの名字に加えて
キリスト教の聖人や、親類の名前などが
つけられているためである。

パブロ・ディエゴ・ホセ・フランシスコ・デ・パウラ・
ホアン・ネポムセーノ・マリーア・デ・ロス・レメディオス・クリスピン・クリスピアーノ・デ・ラ・サンディシマ・トリニダード・ルイス・イ・ピカソ

古今東西、名付けの瞬間には人の祈りが込めらる。