2022年10月22日

執筆者田中真輝

川の流れと文学 『魔物の川』

行く川の流れに、人は何を重ねてきたか。

日本最古の歴史書「古事記」に
描かれるヤマタノオロチ。

その姿は、頭が八つ、尾が八つ。
腹には常に血が滲んでいる。

一説によると、これはかつて
出雲を流れる斐伊川(ひいかわ)が
氾濫し田畑を荒らしたことが
由来だと言う。

曲がりくねった斐伊川が、
夕日に照らされる様子は、
今も、八つの頭をもつ大蛇を想起させる。

2022年10月22日

執筆者澁江俊一

Photo by mettraux

川の流れと文学 『銀河に続く川』

行く川の流れに、人は何を重ねてきたか。

岩手県を流れる北上川。

宮沢賢治が子どもの頃、
この川で溺れて
亡くなった少年がいたという。

大人になっても
忘れられなかった
そのイメージは
小説「銀河鉄道の夜」へと続いていく。

けれどもほんとうの幸いは
いったいなんだろう?

賢治の想像力は
北上川のほとりで
その答えを探し続けた。

2022年10月22日

執筆者澁江俊一

Photo by *雪華

川の流れと文学 『罪を流す川』

行く川の流れに、人は何を重ねてきたか。

京都、木屋町を流れる高瀬川
桜の名所で知られる、
江戸時代の物流用の運河である。

罪を犯した罪人もまた
この川で運ばれていった。

森鴎外の短編小説「高瀬舟」は
弟殺しの重罪を犯した男と       
それを護送する役人の物語。   

弟を殺した男の顔は
なぜかとても晴れやかで
幸せそうだった。

善や悪では
割り切れない罪をのせて
小さな船は夜の水面を流れていく。

2022年10月22日

執筆者澁江俊一

Photo by Guwashi999

川の流れと文学 『若い2人の間の川』

行く川の流れに、人は何を重ねてきたか。

東京の都心を流れる神田川。

同棲する若い男女の心模様を
描いて大ヒットした
フォークソングのタイトルとしても
よく知られる川である。

かぐや姫という、
男性グループが歌うこの歌は
女の気持ちを歌ったようで
学生運動に参加していた
男の気持ちとも読み取れる。

神田川は小さな川だが、
その歌は男と女の
揺れ動く心情を受け入れて
幅広く解釈できる
なかなか深い歌なのだ。

2022年10月22日

執筆者澁江俊一

Photo by babasteve

川の流れと文学 『人間の魂を流れる川』

行く川の流れに、人は何を重ねてきたか。

その流れに身を浸し沐浴するため
世界中からあらゆる宗教の壁を超えて
多くの巡礼者が訪れる、インドのガンジス川。

この川をモチーフにして描かれる
遠藤周作の小説「深い河」。

キリスト教と日本人。
遠藤が生涯追い求めたテーマの
最終章となる物語である。

ヨーロッパで誕生した
キリスト教が掲げる真理を
その教えから遠く離れた日本で
ひたむきに生きる
さまざまな男女の人生をつむぎながら、
どこまでも深く突き詰めてゆく
壮大なストーリー。

あらゆる宗教を超えた
人類普遍の救済とは何なのか?

キリスト教国でも広く読まれ
ノーベル文学賞候補にもなった作家が
答えを探し続けた、
どこまでも深い問いかけ。

その旅の先に辿りついたガンジス川は
今日も豊かな水をたたえて
たくさんの人々の生と死を
清め続けている。

2022年10月16日

執筆者熊埜御堂由香

命のはなし 命の成り立ち

文字と文字が組み合わさって意味をなす漢字を
会意文字という。
命という漢字もその一つだ。
命令の令に口を合わせると命になる。

令はひざまづいて神のお告げを聞いている人の姿を表し、
口には、「神に捧げる祝詞を収める器」を表すという説がある。
生きることを神に命じられた「命」という一文字には
すべての人類に通じる厳かな意味が宿っている。

2022年10月16日

執筆者熊埜御堂由香

Photo by gullevek

命のはなし 誕生日の誕生

実は誕生日を祝う習慣は、昭和から始まったもの。
昔は「数え年」で年齢を数え、
お正月がくるとみんな一斉に歳をとっていた。
明治35年に「年齢計算に関する法律」が施行。
自分の誕生日にひとつ歳をとる満年齢の考え方が導入される。
それが広く普及したのは、昭和25年に
「年齢のとなえ方に関する法律」ができてからのこと。

今日も日本のどこかで、誕生日がやってくる。
おめでとう。同じものが一つとない、
命の輝きがその一言に込められている。

2022年10月16日

執筆者若杉茜

Photo by Ryosuke Sekido

命のはなし 「生きる」

黒澤明監督の名作映画、「生きる」。

余命いくばくもないと突然宣言された市役所勤めの男が、
死んだように仕事をしていた自分の生き方を見つめ直し、
最期まで生き抜く物語。

死を前に男は、仕事を通じ、
人々のために公園を作ることを決意する。
走り去る男の背後に流れるのは、
新しい男の誕生を祝う、ハッピーバースデーの歌。

ひとは、
生きながら死ぬことも、
死を目前にしてなお、新しく生まれることもできる。

燃えるも、
くすぶるも、
どちらも同じ、一つの命。

2022年10月16日

執筆者若杉茜

Photo by Feed My Starving Children (FMSC)

命のはなし 世界食糧デー

今日、10月16日は、世界食糧デー。
世界150カ国以上で共有された、食料問題を考える一日。

普段何気なく口に運ぶ一口が、なるべく多くの人に届きますように。
そんな願いが込められた日。

どんな日も、命は、食べることで繋がれる。
今日もわたしたちは、命を食べて、命を繋ぐ。
いただきます。

2022年10月16日

執筆者厚木麻耶

Photo by Jaredzimmerman (WMF)

命のはなし 死者の日

死者の日。亡くなった人を偲ぶ、メキシコの祝祭。
日本のお盆ではその死を惜しむが、
メキシコでは死を祝い、生きる喜びを分かち合う。

かつてメキシコは植民地支配や疫病により
国民は過酷な生活を強いられた。
明日生きているかわからない。だからこそ、
今生きているこの命に感謝をし
死者を明るく送り出すようになった。

その儀式は命をまるごと肯定する温かな時間だ。