Moment for Love 1 / ねがい

父と母の仇（かたき）を
やっとの思いで目の前に
追い詰めたガンマン

命乞いする敵から銃口をそらし
立ち去れと命ずる

“You ain’t worth killing”

お前には手を下す価値がない

ヘンリー・ハサウェイ監督「ネバダ・スミス」

憎しみに憎しみで向き合えば連鎖する
それを断ち切る行為は　未来へのねがい　そのもの

〜Moment for Love〜

Moment for Love 2 / まっすぐな道

何十年も前
心にもない言葉を言いあったことで
はなればなれに暮らすようになった兄と弟

兄が倒れた知らせを聞いて
弟は
唯一の手段　トラクターで旅に出る

今しかない
今しかできないときに
まっすぐ道を拓くこと

デヴィッド・リンチ監督「ストレイト・ストーリー」

いっしょに星を見ていた幼い頃の記憶
それだけでつながる絆

兄は何も言わず弟を迎え入れる

〜Moment for Love〜

Moment for Love 3 / 人を好きになること

自分のライバルをはるばる東海岸から追いかけてきた女性に
心打ち抜かれてしまったガンマン

Shave! …Shave!
ひげをそってくれ！
ひげだけでいい！

かつては理髪店でぶっきらぼうに注文していた彼が
ある日きれいに髪をセットして香水のかおりまでさせていることに
周囲は驚く

「荒野の決闘」ジョン・フォード監督

日本語のタイトルは荒々しいが
原題は“My Darling Clementine”
繊細な愛の物語

I sure like that name, Clementine
あなたの名前が好きだ　クレメンタイン

あなたのことが好きだと言えないその男の
ラストシーンの言葉　
雄弁に胸を打つ

〜Moment for Love〜

Moment for Love 4 / しあわせとの出会い方

人生最後の願いは誰かに愛されること
主人公の願いをかなえるためにスタッフは
かりそめの告白シーンを演出する

好きとささやく相手に
彼はどうしても　話をあわせられない

とおりいっぺんのしあわせと
じぶんにとってのしあわせはちがう
そのときイケダはせつなくかがやいていた

池田英彦監督
「愛について語るときにイケダの語ること」

〜Moment for Love〜

Moment for Love 5 / かわる かわらない

見ず知らずのふたりが
奇妙な友情に結ばれる

ジョー・ダンテ監督
「インナースペース」

まわりから頼りないと思われていた男が
自分だけの魅力を発見していくのは
ミニチュア化され自分の体内に送り込まれた潜航艇のパイロットともに
ひとつずつピンチを乗り越えていったから

それにしても昔いいと思った映画は
いつになっても　やはりいいもの
人は思うほどにはかわらない

〜Moment for Love〜

Moment for Love 6 / やさしさとがむしゃらさ

とつぜんの攻撃に
日常は一変する

スティーブン・スピルバーグ監督
「宇宙戦争」

不穏な風が吹き始める
いちもくさんに家に帰り
家族を集め車をひたすら走らせるのは
トム・クルーズ演じる父

どんなときもなりふりかまわず
息子や娘に白い目で見られても
とにかく家族を守り抜きつづける

真のかっこよさは
いつか誰かがわかる
やさしさとがむしゃらさなのさ　と教えてくれる作品

〜Moment for Love〜

Moment for Love 7 / 涙のあと

オリバー・ストーン監督「プラトーン」
従軍経験のある監督の自叙伝的な視点は鮮烈で
多くの人が「これで同じような戦争は起きなくなるはずだ」と信じた

テーマ曲として有名なのは
バーバのアダージョ

一方　
つかのまの休息をあたえられた若い兵士たちが
バラックで肩を組みながら歌う印象的なシーン

その曲は
Smoky Robinson and The Miracles
”The Tracks of My Tears”

地獄の日々の中で
ほんのつかのまのやすらかさを兵士にもたらすのは
せつないラブソングだった

〜Moment for Love〜

Moment for Love 8 / かみひとえの世界なら

激戦地
ソロモン諸島　ガダルカナル

匍匐前進をする兵士の前に
揺れる美しい花

テレンス・マリック監督「シン・レッド・ライン」
この世界とあの世界を隔てる細い赤い線

世界は美しい
なんのためにひとはたたかうのか
無言で誰かが問いかける

〜Moment for Love〜

雨のある風景 『天気の子』

雨の中の出会いがある。

少年が家出をして、
やってきた東京は雨続きだった。
雨、雨、雨の中を、
バイトを探して歩き回る日々。
そんなとき少年は一人の少女に出会った。
少女は100％の晴れ女だった。

少女が呼ぶことができるのは、小さな範囲の短い晴れ間。
それはまるで光の水たまりのようだった。
空模様と人の気持ちが関係あることを
少年は知った。
新海誠監督、映画『天気の子』は、
世界のある秘密についての物語。

雨のある風景 『東京八景』

忘れられない雨の風景がある。

津軽から出てきた青年が
東京で最初に住むことになったのは戸塚の下宿だった。
東京で暮らした10年間を
青年は後に『東京八景』という小説に書いた。
最初の風景は「戸塚の梅雨」となっている。

太宰治『東京八景』の中に雨についての描写はない。
下宿の部屋から見た雨の記憶は作家の中だけにある。