2022年04月16日

執筆者波多野三代

Photo by Helena Lopes

〜人類と歌〜 牛を呼ぶ歌

かつてスゥエーデンでは夏になると
若い女性一人に牛を放牧させたという。

牛は草を求め、遠く遠く、何キロも歩いていく。

それをたった一人で、どうやって導いたか。

彼らを呼び寄せるために生まれたのが

高い音域で歌う歌唱法だった。

「キュールニング」と呼ばれるその歌声は、

たとえ強い風が吹いていても、

数キロ先の牛たちの耳に届いたという。

〜人類と歌〜

2022年04月16日

執筆者波多野三代

Photo by Nick Morieson

〜人類と歌〜 聞きたい歌がある

古代ギリシャには歌う魔物がいた。
その名はセイレーン。

女性の顔に鳥の体。

その歌声を聞いた者は海の底へと誘い込まれる。

だが一人だけ、無事だった者がいる。
オデュッセウス。

船員たちには耳栓をさせ
自分はマストに体を縛り付け、
その美しい歌をたっぷりと堪能した。

どうしても聞きたい歌がある。
昔も今も。

〜人類と歌〜

2022年04月16日

執筆者波多野三代

Photo by tom jervis

〜人類と歌〜 海の子守唄

鯨が歌うことは有名だが、
歌う魚がいることはあまり知られていない。

その名はイシモチ。

晩のおかずとしても人気があるこの魚は、

浮き袋を膨らませぐうぐうと鳴く。

繁殖期の海の底は、恋の大合唱に包まれ、

それは船の上にまで届くという。

波を枕に眠る漁師たちには、
海の子守唄と呼ばれることもあるそうだ。

〜人類と歌〜

2022年04月16日

執筆者波多野三代

〜人類と歌〜 世界最古のコマーシャルソング

「フニクリ・フニクラ」は、
世界最古のコマーシャルソング。

1880年、イタリアのヴェスヴィオス火山に登山鉄道ができた。

だがお客が来ない。

そこで作られたのが
火山と鉄道をテーマにした愛の歌だった。

「結婚しよう、愛しい人!」と
呼びかけるこの歌は大ヒットしたが、

後に登山鉄道は火山の噴火で吹き飛ばされ、
復旧することはなかった。

そして歌だけが残った。

〜人類と歌〜

2022年04月16日

執筆者波多野三代

Photo by Daniel Enchev

〜人類と歌〜 南極の歌う氷

南極の氷が歌う。

人類がその歌を発見したのは2018年。

マントルの動きを計測するセンサーが伝えてきた
「氷が常に周波数を変えて歌っている」という事実。

科学者たちが「歌」と呼ぶそれは
南極の強風が、分厚い氷を震わせる
地震性のノイズだった。

風に揺すぶられて氷は歌う。

気温が上昇し、
氷が溶け始めると歌のピッチは下がり、
再び気温が下がっても、元の音に戻ることはない。

南極の氷がすべて溶けるその日、
私たちはどんな歌声を聴くだろう。

〜人類と歌〜

2022年04月16日

執筆者波多野三代

Photo by Nathan Riley on Unsplash

〜人類と歌〜 黒猫のタンゴ

日本で大ヒットした「黒猫のタンゴ」には原曲がある。

イタリアの童謡で、
タイトルはVolvo un gatto nero.
意味は「黒猫が欲しかったのに」。

黒猫が欲しいって言ったのに、
君がくれたのは白猫だった。
嘘つきの君とはもう遊ばない。

その歌がはるか海を渡り、
黒い猫がどうしても欲しかった子どもは、
日本でついに願いを叶えたようである。

〜人類と歌〜

2022年04月16日

執筆者波多野三代

〜人類と歌〜 Fly me to the moon

「Fly me to the moon」
人類が月で最初に聴いた歌でもある。

この歌が最も有名になった1960年代アメリカは、
アポロ計画の真っ只中。

フランク・シナトラの歌声に乗り、人々の心は月へと向かった。

アポロ11号に積み込まれたものは、
ライト兄弟が初めて空を飛んだ時のプロペラと翼の破片、
アポロ1号の搭乗員がつけるはずだった階級章
そしてこの歌のカセットテープだった。

アポロ11号の搭乗員、
バズ・オルドリンとニール・アームストロングは、
月着陸船イーグルの船内でこの歌を聞いたという。

ちなみに、人類がはじめて月に立つその5360年前に作られた、
「最古の歌」と言われる楽譜をご存知だろうか。
それは紀元前14世紀、シリアの古代都市ウガリットの粘土板に刻まれていたもの。

その歌は、古代シリアの人々がはるかな夜空を見上げ、
月の女神のために作ったものだった。

〜人類と歌〜

2022年04月10日

執筆者長谷川智子

“Shall We Dance?”

Shall We Dance?

ミュージカル「王様と私」の名シーンがある。

言葉で分かりあえなかった
アンナと王様が
手をとりあい
ポルカのステップを踏む。

心が踊りだす。

男と女、
王様と教師、
タイとイギリス、
国も身分も性別も
互いを遮るものが消えていく。

Shall We Dance?
それは、心を通わせる魔法の言葉。

2022年04月10日

執筆者長谷川智子

Photo by Richard Due

“Electricity”

「バレエを踊ってるとき、どんな気持ち?」

そう訊かれて少年は答えた。
「僕の中で火花が散って、自由になるんだ。」

ミュージカル「ビリー・エリオット」は
バレリーナを目指す少年の物語。
マッチョな炭鉱の町では
それはかなり異色な出来事だった。

男子がひとりもいないバレエスクール。
ボクシングを習わせたい父親。
でも「男の子だから」というルールは彼にはない。

ビリーは自由に向かって踊る。

2022年04月10日

執筆者長谷川智子

Photo by Nan Fry

ジョン・ライアンズ・ポルカ”

映画「タイタニック」で、
主人公ジャックとローズが
3等客室で踊るのは、
ジョン・ライアンズ・ポルカ。
アイルランドの伝統的な曲のひとつだ。

当時のアメリカ行きの船には
食い詰めて新天地をめざすアイルランド人が
たくさん乗っていた。   

貴族出身ののローズは、
その踊りに加わることに、はじめ躊躇する。

ポルカは2拍子の陽気な曲だ。
聞いているだけで、
自然と足が動き、心が動いた。

身分やしきたりを
自分の意思で捨て去る解放感を
そのダンスが教えてくれた。