2024年03月23日

執筆者新井奈生

Photo by Australian Science Media Centre

宇宙#4

2010年、日本の宇宙探査機「はやぶさ」のカプセルが
着陸したのは、遠く離れたオーストラリアだった。
中身は宇宙で採った研究サンプル。
壊れたら全てが台無しである。
つまり地上部隊のミッションは
日本までおよそ7,000キロ、これを無傷で運ぶことだった。
そのストレスたるや・・・。
協議の末、カプセルには損害保険がかけられることになった。
保険額は一千万オーストラリアドル。
日本円に換算すると、ざっくり100倍である。
ロマンを守るにも、お金はかかるのだ・・・。

2024年03月23日

執筆者新井奈生

Photo by Australian Science Media Centre

宇宙#5

2010年6月13日。
日本の宇宙探査機「はやぶさ」から分離したカプセルは、
オーストラリアの南部、ウーメラに着陸した。
はるかな宇宙からたどり着いた奇跡の小包・・・。
そのロマンの前では全てが許される・・・ような気がしてくるが、
そう上手くはいかないのが現実である。

この、「宇宙からの荷物」でさえ避けては通れない関門。

そう、「検疫」である。

検疫とは、
ある国から他の国へ荷物を運び入れる場合、
そこに付着したウイルスや菌、生物、
その他あらゆる危険をチェックすることである。
が、なにしろ相手は「宇宙からの荷物」。
検疫には苦労がともなった。

そもそも、カプセルの中身は
小惑星のかけらをはじめとする貴重な研究サンプルである。
当然、壊れやすさも未知数。
万が一にも破損させたら・・・国際問題になりかねない。
検疫チームはまずカプセルの落ちた一帯を封鎖し、
中身に破損がないかを確認した。

だが、さすがにそれ以上のチェックはできない。
次なる問題は「検疫所への移動」であった。
破損のリスクを最小限に抑えるため、
カプセルは検疫場まで、特殊なヘリコプターで運ぶこととなった。
しかしこのカプセルが落ちたウーメラ一帯には、
なんとアボリジニの聖地が含まれていたため、
ヘリコプターの着陸許可には相当な時間がかかったようだ。
検疫など、本来ならさっさと済ませたい話なのだが
宇宙からの飛来物・・・となると、
とんでもないスケールに手間が膨れ上がるのである。

検疫。それはこれから来る宇宙時代に、
人類に大混乱を引き起こすテーマ・・・かもしれない。

2024年03月17日

執筆者佐藤延夫

Photo by Oliwier Brzezinski

ソースみたいな存在であったなら
「マスタード」

たとえばホットドッグを注文したとき。
これがなかったら、悲しい気持ちになるだろう。
人生を変えるほどではないけれど、
今という瞬間を、
ちょっと幸せにしてくれるもの。
それが、マスタード。
マスタードシードの歴史は、
紀元前4000年にも遡るそうだ。
また、古代ローマの史料には
こんな一文が残されている。

細かく刻んだマスタードの種子に酢を混ぜ、
すりつぶしたアーモンドや松の実と合わせる。

まるで現代のレシピだ。
中世になると、高価なスパイスの代用品として庶民が愛用し、
ルネサンス期には特権階級の食卓にのぼった。
マスタードは、人類に欠かせないものだ。
ナイチンゲールは言っている。

物事を始めるチャンスを私は逃さない。
マスタードの種のように小さな始まりでも、
芽を出し、根を張ることがいくらでもある。

生き方も、マスタードが教えてくれる。

2024年03月17日

執筆者佐藤延夫

ソースみたいな存在であったなら
「ウスターソース」

インドがまだイギリスの植民地だった時代。
貴族が料理人に、インド風ソースを作らせた。
そのときの原料は、おそらく大豆や魚、
スパイス類だと思われる。
最初にできあがったソースは
あまりに刺激が強かったが、
放置されている間に発酵と熟成が進み、
まろやかな味わいになったという。
それがウスターソースの始まりだ。
ちなみにその場所は、
イギリスのウスターシャ州。
実は世界で最も有名な地名のひとつ。

2024年03月17日

執筆者佐藤延夫

ソースみたいな存在であったなら
「ベシャメルソース」

グラタンといえば、ベシャメルソース。
だが、その名前の由来は眉唾ものだ。
ルイ14世時代の貴族であり美食家でもあった
ルイ・ド・ベシャメルが考案したという説。
また、新しいソースをつくった宮廷料理人が
ベシャメルに敬意を表し、この名前をつけたという説。
そのほかにもいくつかの説があり、
どれも真偽は定かではない。
とはいえ、バターと小麦粉、牛乳が織りなす純白のソースは、
そんな由来など、どうでもいいくらい幸せになれる。

2024年03月17日

執筆者佐藤延夫

Photo by Andie712b

ソースみたいな存在であったなら
「ケチャップ」

ケチャップ。
本来その原料は、トマトとは限らない。
野菜や果実、キノコ、魚介類などから作られる調味料、
という定義になる。
イギリスでは今でもマッシュルームのケチャップがあるそうだ。
トマトが食用として広まったのが18世紀なので、
アメリカでトマトケチャップが誕生したのは、そのあとのこと。
でもトマトがケチャップの存在を
一気に世界レベルに押し上げたのは言うまででもない。
それはさておき、
オムライスはケチャップ派か、ドミグラスソース派か。
そんな話をするのは、とても楽しい。

2024年03月17日

執筆者佐藤延夫

ソースみたいな存在であったなら
「タルタルソース」

タルタルソースという不思議な名前は、
モンゴル帝国に従属した遊牧民タタール人に由来する。
刻んだ香味野菜を添えた馬肉料理という
タタール人が好んで作ったものが
ヨーロッパでタルタルステーキという名前で定着。
それにより、
生の素材を刻んだもの全般が、
タルタルと呼ばれるようになってしまった。
つまりタルタルソースそのものに
モンゴル帝国はあまり関係がない。
タタール人も迷惑しているかもしれないが、
エビフライとタルタルソースのハーモニーを知ってしまうと、
タルタルに関わったもの全てに感謝したくなる。

2024年03月17日

執筆者佐藤延夫

Photo by Nicky Jurd

ソースみたいな存在であったなら
「マヨネーズ」

地中海のメノルカ島に、
マオンという港町がある。
18世紀半ばのこと。
フランスの公爵がこの町を訪れた際、
オリーブ油と卵黄、レモン汁を混ぜたソースにいたく感動し、
そのレシピを持ち帰ったことで広まった。
それがマヨネーズだ。
もともとは、マオンのソース。
フランス語では、「Mahonnaise(マオンネーズ)」。
小さな島から、こんな大発見があるなんて!

2024年03月16日

執筆者村山覚

ポルトガルの話 「エッグタルト」

パステル・デ・ナタは、ポルトガルの国民的デザート。
薄くてぱりぱりのパイ生地に、
たっぷりのカスタードクリームがおいしい
伝統的なお菓子。

このポルトガル風エッグタルトが生まれたのは、
リスボンの修道院だと言われている。

修道士たちは服にアイロンをかけるときの糊として
卵白を使い、大量に余った卵黄でいろんなお菓子を
つくったのだ、なんて話も伝わっている。

2024年03月16日

執筆者村山覚

Photo by sogni_hal

ポルトガルの話 「コルク」

ワインのボトルでおなじみのコルク。
実は、世界のコルクの半分以上はポルトガル産。
ポルトガルの街角では、コルクでできた靴やサンダル、
バッグやスーツまで売っている。
コルクは超軽量、柔軟、そして断熱性もあるのが特長。
家の床や壁、なんと宇宙船でも使われているらしい。

ところで、
ワインの栓を抜くときにはコルクの長さにもご注目。
長期熟成が必要な高級ワインには、
長さ5、6cmのものが使われるそうだ。
さて、今夜のワインは……

ポンッ(コルク栓を抜く音)