2023年07月08日

執筆者長谷川智子

旅の荷物 「フランシスコピサロ」

15世紀後半。
フランシスコ・ピサロは、スペイン南部の街に生まれた。
私生児として生まれた彼は、
ろくな教育も受けず、文字も読めないまま兵士となる。
厳しい環境から抜け出すため、
己の才覚だけで、将軍にまで成り上がった。

時は、大航海時代のまっただなか。
新大陸と呼ばれたアメリカ大陸には、
黄金の都があるという噂が広まっていた。
ピサロはスペイン国王の許可を得て大西洋を渡り、手下を引き連れて
黄金を求めて旅に出る。
金と権力と輝く人生を手に入れたい、という夢と野望を抱いて。

そこは、インカ帝国という、言葉も暮らしも異なる人々が暮らす国。
険しい自然や病気、そしていつインカ人に襲われるかもしれない、
という恐怖におびえながらも、
ピサロ達は、黄金の熱にうかされたまま険しい道をすすむ。

幾多の闘いを経て、
ピサロ達は、帝国を滅ぼし、莫大な黄金も、広大な土地も
わがものとしてしまう。
権力の頂点に座るピサロ、
故郷スペイン、国王のもとへ黄金を土産に堂々帰還するはずが。
旅は、思わぬ最期を迎える。
諍いがもとで、ピサロは仲間に暗殺されてしまう。

今、
終焉の地であるペルーの首都リマの大聖堂に眠るピサロ。
彼が見る夢は、故郷スペインへの郷愁なのか、
それとも新たな野望なのか。

2023年07月02日

執筆者中山佐知子

Photo by PxHere

銀河鉄道の星めぐり 「銀河ステーション」

星祭りの日。

ジョバンニは学校で銀河について習った。

「天の川が本当に川だと考えるなら、
 その一つ一つの小さな星は、
 みんなその川の底の砂や砂利の粒にも当たるわけです」

その夜、ジョバンニは丘の上で、
「銀河ステーション」という声を聞いた。

いつの間にか、
列車に乗っていた。

「ごとごとごとごと」

銀河鉄道はどこまでも走る。

〜銀河鉄道の星めぐり
TRAIN DE NUIT DANS LA VOIE LACTEE〜

2023年07月02日

執筆者中山佐知子

銀河鉄道の星めぐり 「北十字星」

「ごとごとごとごと」

銀河鉄道はどこまでも走る。

やがて銀河の流れの真ん中に、
青白く光る島が見えてきた。

島には白い十字架が静かに立っていた。

白鳥座の北十字星だ。

(ハレルヤ ハレルヤ)

乗客はみんな立ちあがり、
十字架に向かって祈った。

白鳥座は天の川に大きく羽を広げ、
北の空から南へ向かって飛んでいる。

銀河鉄道の線路も天の川の
左の岸に沿って南へ南へと延びていた。

〜銀河鉄道の星めぐり
TRAIN DE NUIT DANS LA VOIE LACTEE〜

2023年07月02日

執筆者中山佐知子

Photo by 1CM69

銀河鉄道の星めぐり 「アルビレオ」

銀河鉄道の線路は天の川の
左の岸に沿って南へ南へと延びていた。

やがて川の真ん中に黒い大きな建物が見えてきた。

アルビレオの観測所だった。

その屋根の上には
サファイアとトパーズの大きな球が静かにまわっていた。
青と黄色が重なったところは緑色になり、
また離れて青と黄色にもどる。

そんな動きを繰り返しながら、
音もなく形もない銀河の水の速さを測っているのだった。

アルビレオは白鳥座の頭の部分にある有名な二重星。
天の宝石とも呼ばれる星だ。

肉眼ではひとつにしか見えないが、
望遠鏡をのぞくと大きな黄色い星と小さな青い星が
美しく寄り添う姿が見える。

銀河鉄道はアルビレオを後にして、
さらに南へ向かっている。

〜銀河鉄道の星めぐり
TRAIN DE NUIT DANS LA VOIE LACTEE〜

2023年07月02日

執筆者中山佐知子

Photo by jpstanley

銀河鉄道の星めぐり 「双子の星のお宮」

銀河鉄道はアルビレオを後にして、
さらに南へ向かっている。

鷲座の停車場と、
もうひとつの停車場を過ぎると、
双子の星のお宮があった。

水晶でできたような小さなお宮がふたつ。

けれど、双子の星とはどの星だろう。

「蠍座の尻尾の二重星?」

「琴座のイプシロン?」

さまざまな議論を置き去りに銀河鉄道は走る。

〜銀河鉄道の星めぐり
TRAIN DE NUIT DANS LA VOIE LACTEE〜

2023年07月02日

執筆者中山佐知子

Photo by Judy Schmidt

銀河鉄道の星めぐり 「蠍の火」

銀河鉄道は走る。

川の向こう岸が赤くなった。

サソリの火だった。

たくさんの虫の命を奪って生きてきたサソリが
死を目の前にして、次のときはみんなの幸せのために、
自分のからだをお使いくださいと祈った。

それからサソリは夜の闇を照らす
赤い火になったのだ。

サソリの火は、
赤い星アンタレス。

銀河鉄道は星々をめぐりながら、
南へ向かっている。

〜銀河鉄道の星めぐり
TRAIN DE NUIT DANS LA VOIE LACTEE〜

2023年07月02日

執筆者中山佐知子

Photo by Naskies

銀河鉄道の星めぐり 「南十字星」

銀河鉄道は星々をめぐりながら、
南へ向かっている。

天の川から突き出た一本の木のように、
あらゆる光を散りばめた十字架が立って輝いていた。

列車はため息と祈りの声に満ちていた、

南十字星、
サウザンクロスの停車場に着くと、
たくさんの乗客が降りた。

がらんとした列車の中に風が吹き込んだ。

ジョバンニはカムパネルラに言った。

「どこまでもどこまでも一緒に行こう」

カムパネルラが言った。

「あ、あすこ石炭袋だよ。そらの孔だよ」

〜銀河鉄道の星めぐり
TRAIN DE NUIT DANS LA VOIE LACTEE〜

2023年07月02日

執筆者中山佐知子

Photo by gianni

銀河鉄道の星めぐり 「暗黒星雲」

「あ、あすこ石炭袋だよ。そらの孔だよ」

カムパネルラが指差したのは、
天の川に口を開けた大きな真っ暗な穴だった。

のぞいても何も見えず、
ただ目がしんしんと痛むだけだった。

銀河鉄道の星めぐりは石炭袋で終わる。

石炭袋の正体は「暗黒星雲」。

あまりに密度が高く、
光を遮るので空の穴にしか見えないが、
実はここに集まっているガスやチリは新しい星の材料である。

ジョバンニは銀河鉄道に乗って、
ついに星が生まれる場所を目撃した。

〜銀河鉄道の星めぐり
TRAIN DE NUIT DANS LA VOIE LACTEE〜

2023年07月02日

執筆者中山佐知子

Photo by Luca Calderone on Unsplash

銀河鉄道の星めぐり 「マゼラン星雲」

銀河鉄道の夢が醒めようとしていた。

地平線の向こうから、
青白い狼煙が上がり列車の中が明るくなった。

ジョバンニは叫んだ。

「ああ、マジェラン星雲だ」

天の川がみるみる遠ざかる。

ジョバンニは走り出した。

本当の幸福(こうふく)を探すために。 

〜銀河鉄道の星めぐり
TRAIN DE NUIT DANS LA VOIE LACTEE〜

2023年07月01日

執筆者佐藤延夫

富士山 「由来」

富士山、という文字が
最初に使われた文献は、
平安初期に編纂された「続日本紀(しょくにほんぎ)」。
それ以前にも「フジ」という言葉は
万葉集でも詠まれてきたが、
現在と同じ文字の「富士山」は
初めてここで登場する。

「フジ」の語源は諸説あり、
土地の名前から由来する説、
アイヌ語で火の山を意味する「フンチ」という説、
二つとない美しいもので「不二」という説など、
私たちの想像力を掻き立ててくれる。

今日は7月1日。
富士山の山梨側、吉田口のルートは、今日が山開き。