「ウォーリス・バッジ」 いちばん欲しかったもの
大英博物館の考古学者ウォーリス・バッジ。
彼は1924年、67才で退職するまでの約40年間で、
エジプトの文化遺産を4万点、メソポタミア関連を5万点集めた。
その横暴な収集方法への批判に対し、彼は自伝でこう反論した。
ミイラの略奪者はエジプト人自身だ。
盗掘商人が墓から持ち出したミイラを、
我々が買わなければ、ミイラは焼かれてしまう。
1934年、脳血栓でこの世を去るまでバッジは、
世界でもっとも安全な大英博物館で保護され展示されることこそ、
文化遺産と世界中の人々にとって幸せだと信じていた。
ところが1998年、ある事実が発覚する。
イギリスがギリシャから持ち帰ったパルテノン神殿の彫刻群。
これらは元々、鮮やかな彩色が施されていたにも拘らず、
彫刻は白であるべきという間違った美意識のせいで、
大英博物館が白く塗り替えてしまっていたのだ。
バッジたち博物館の職員は、エジプト人を原始人と呼び、
その無知に散々つけ込んだ。だが職員たちもまた、
正しい知識を持っていたわけではなかった。
大英博物館に保護されたからこそ、残せた文化遺産は多い。
しかし2010年、エジプトやインドなど古代文明が発祥した25ヶ国が、
文化遺産の返還を連携して求めていくことを宣言した。
フランスやアメリカの一部の博物館はすでに返還に応じている。
大英博物館は1753年の創設以来、一切の返還に応じていない。