2022年12月31日
川野康之
星野道夫の旅 日本から来た若者
いくつもの飛行機を乗り換えて
ベーリング海に浮かぶ小さな島の村に着いた。
大人や子どもが集まってきた。
一人がニコニコしながら近づいた。
「ミチオ?」
「イエス、イエス」
その日からひと夏の間、
星野道夫は
エスキモーの家族の一員になった。
アザラシ猟を手伝い、
トナカイ狩りに出かけた。
野生のクマと初めて出会った。
日本が遠い遠い国に思えた。
2022年12月31日
いくつもの飛行機を乗り換えて
ベーリング海に浮かぶ小さな島の村に着いた。
大人や子どもが集まってきた。
一人がニコニコしながら近づいた。
「ミチオ?」
「イエス、イエス」
その日からひと夏の間、
星野道夫は
エスキモーの家族の一員になった。
アザラシ猟を手伝い、
トナカイ狩りに出かけた。
野生のクマと初めて出会った。
日本が遠い遠い国に思えた。
2022年12月31日
日本に帰ってからも
頭の中はアラスカのことでいっぱいだった。
星野道夫は
アラスカに移り住むことを決意した。
フェアバンクスの空港に着き
まっすぐアラスカ大学へ向かった。
どうしても野生動物学部に入らなければならなかった。
英語の点数が30点足りなかったが、
学部長に必死で気持ちを伝えて、入学が許可された。
目の前にアラスカの大地があった。
新たな旅の一歩を踏み出した。
2022年12月31日
セスナが飛び立って見えなくなると
星野道夫はもう一人ぼっちだった。
雪と氷の原野にテントを張った。
カリブーの大移動を見るためにここまでやってきたのだ。
ブリザードの夜、テントから顔を出すと、
強風の向こう、稜線を何かが一列になって動いている。
カメラを持って飛びだした。
白夜の淡い光の中で
黙々と行進するカリブーのシルエットが見えた。
夢中でシャッターを切った。
2022年12月31日
星野道夫は
エスキモーのクジラ漁のキャンプに加わった。
夢見ていたクジラ漁は、
ひたすら待つことだった。
風を待ち、
氷が割れて海面が現れるのを待ち、
そこにクジラが通るのを待った。
クジラが現れると
アザラシの皮でつくったボートを懸命に漕いで追いかける。
そのなかに星野道夫もいた。
追いつけなかったが、
その時のことを後にこう書いている。
「それは表現することのできない、異次元の体験であった。
追う人間と、同じ生命の延長線上にクジラの生命があった。」
(『アラスカ 光と風』)
2022年12月31日
18でシシュマレフ村の写真と出会った時から
星野道夫の旅は始まった。
アラスカの大自然をめぐり、
さまざまな野生動物と出会った。
命と命、お互いを見つめ合った。
今生きているという一瞬が、そこにはあった。
今年、星野道夫が使っていたカメラの一つが26年ぶりに発見された。
フィルムが入ったままになっていた。
現像すると、氷の海を歩くホッキョクグマの親子が写っていた。
26年前、ここを旅していた星野道夫は、
どんな気持ちでシャッターを押したのだろうか。
2022年12月25日
キリストの誕生を祝う歌、クリスマス・キャロル。
古くから伝わる聖歌を、
子供たちが家から家へ、歌って回ることを
キャロリングという。
歌のお礼にお菓子のギフトを手渡し、
お祝いの気持ちを交換する。
キリスト教の国で今でも残る風習だ。
今日、小さなノックの音がしたら、
耳をそば立ててみてほしい。
あの聖歌が聞こえてくるかもしれない。
2022年12月25日
「きよしこの夜」。
この歌は、1818年のクリスマス
オーストリアの小さな村の教会で初めて歌われた。
教会のオルガンが壊れて
修理できないままクリスマスイブを迎える。
聖歌を楽しみにしている村人のため、
神父が歌詞を書き上げて、
ギターの伴奏がつけられないかと、
教会のオルガン奏者グルーバーに話を持ちかけた。
当時、ギターは大衆的な楽器だったため、
教会での演奏を躊躇したグルーバー。
そこを神父が頼み込み、
メロディーをつけてもらったのが始まり。
なんとか、きよしこの夜に間に合って生まれた聖歌は、
みんなの歌として今日も歌い継がれている。
2022年12月25日
日本を代表する歌人、正岡子規。
日本で初めてクリスマスを詠んだのもこの人だ。
臘八(ろうはち)の あとにかしまし くりすます
1892年、明治25年に読まれたこの唄が、
初めて俳句にくりすますが登場したものと言われている。
臘八とは、12月8日に釈迦が菩提樹の下で
悟りを開いた日のことであり、
この日の周辺で、厳粛な仏教行事が行われる。
そんな厳かな雰囲気から一変して、
華やかで少し騒々しい、浮かれた空気のくりすますへ。
慌ただしい師走の空気と、
子規のくりすますへの距離を感じる唄だ。
子規はその後も繰り返し、クリスマスを詠んでいる。
八人の子どもむつましクリスマス
贈り物の数を尽くしてクリスマス
結局子規も、クリスマスを楽しんでいたのかもしれない。
2022年12月25日
クリスマスといえば
忘れちゃいけないのがクリスマスソング。
たとえば、1800年代に生まれた
「ジングルベル」は、
トナカイではなく、馬につけた鈴の音が
その起源なのだそうだ。
今日を過ぎればまた1年、
クリスマスソングとはお別れだから。
今夜は耳で楽しむ大人なクリスマス、
なんていかがでしょうか。
2022年12月25日
クリスマスを彩る讃美歌の数々。
楽器の誕生がおよそ4万年前だと言うから
歌は、それよりずっと前から
わたしたちの側にあって
祈りを届けるために歌われたのだろう。
それから長い長い月日を経て、
今日、わたしたちはやっぱり祈りを届けるために歌を歌う。
変わらない人類の営みが、クリスマスを彩っている。