ユゥブ・ガラ・メール
そのメールの意味を理解するのに
ひと月かかった。
スパムメールに埋もれていたそのメールは
いつもありえない時間から送られていた。
送信日時は 毎回10年先のきょう午前0時。
最初は
時計が狂ったパソコンから
送られたものだと無視していた。
しかし それは本当に未来から送られていた。
インターネットが 現在と未来をつなげたんだ。
そして その送り主は
おそらく未来にいるオレ自身。
返信はできない。
送れる文字も限りがあるようで 数字だけ。
仮にむこうが文章を送っているとしても
文章として届いていないことに
書き手は気づけない。
このことは誰にも話せなかったし 話したくなかった。
話してもアタマがおかしいと思われるだけだろう。
すべては 空想するしかなかった。
こんな不完全な
一方的なコミュニケーションだったが
これは事実上の「タイムマシン」だった。
未来では標準装備されている
メールの新しい機能なのか
はたまた
時間軸が歪んだインターネット回線上の
偶然の現象なのかそんなことはわからない。
だけど オレは毎日興奮していた。
それはこのタイムマシンで
彼は オレに あるメッセージを
送ろうとしていることは
あきらかだったからだ。
NA:
「ここからふたつのエンディングをお楽しみください。
まず、エンディング/タイプAをどうぞ」
頭からケムリが出るほど考えた。
00012200122011
いつも数字は
0と1と2の組み合わせだった。
そして いつも14けた。
その番号で電話をかけてもつながらない。
プログラムの授業で習った
二進法のコンピュータ言語を
もっと勉強すればよかったと悔やんだものだ。
だけど 今日やっとわかったんだ。
未来のオレがそんな難しい問題を
自分に出すわけがない。
いつも毎週末
自分がいちばんどきどきする数字。
00012200122011
これはサッカーくじTOTOの当たり番号だ。
1はホームチームの勝ち
2はホームチームの負け
0は引き分け
14はJリーグのゲーム数。
01012200122011
毎週末送っていたのは
その週末に行われた試合結果だったんだ。
「賞金を未来に送れ」
これが、メールの意味だった。
NA:
「次のエンディング/タイプBをお楽しみください。」
その長い数字の暗号は 簡単だった。
「あ」が1
「い」は2
「う」が3
というように
50音に数字の番号をつけただけだった。
18/6/2/10/32・・・
つ・か・い・こ・・み・・?
「ツカイコミ ガ バレ ソウダ」
やっぱりこいつはオレだ。
会社の使い込みの件は、誰にも話していない。
「シキュウ イッセンマン コウザ ニ イレロ」
そうか いま口座に入れれば
その数字は未来に送れることになる。
翌朝早速 銀行に 行き
定期預金を解約し 1000万普通口座に入れた。
同時に スマホでメールボックスを開ける。
「1/43/6/20/3 ・・あ・り・が・と・う・・」
ありがとう?
しまった。
オレが オレオレ詐欺にかかって どうする。
急いで
キャッシュディスペンサーで残高を調べる。
口座の金は、ケムリのように消えていた。
出演者情報:地曵豪 http://www.gojibiki.jp/