大石雄士 2013年3月10日

「エノモトくん」

       ストーリー 大石雄士
          出演 齋藤陽介

高校時代のクラスメイト、
エノモトくんのことを思い出すと、今でもうっとおしい。
彼の口癖は「これCGじゃねぇ?」だった。
クラスの女の子がアメリカ旅行のおみやげに
自由の女神のポストカードを買ってきてくれたときも、
世界史の授業で、
教科書にパルテノン神殿の写真が出てきたときも、
周りの友達に「これCGじゃねえ?」と聞いていた。

ある日、そんなエノモト君と学校から帰る
タイミングがたまたま一緒になり、
どういう流れでそうなったのか、
彼がうちの家に寄っていくことになった。
やることもないので、適当にマンガを読んだり、
何を見るでもなく、テレビをつけて一緒に見ていると
クルマや、特撮ヒーローのロボットが出てくるたびに
「これCGじゃねえ?」「これCGじゃねえ?」と聞いてくる。
ボクはそのとき「どうだろうね」と答えることしかできなかったのだけれど、
動物とか、洋服とか、どうみてもCGじゃないモノが
テレビに映ったときも「これCGじゃねぇ?」「これCGじゃねぇ??」
と聞いてくるエノモトくんが、かなりうっとおしかった。

「これCGじゃねぇ?」「これCGじゃねぇ!?」
もう二度と、エノモトくんとテレビは見ないと思った。
そのあと、あれは何の番組だったのか、コマーシャルだったのか、
白やピンクのコスモスのような花が草原一面に広がる風景が
テレビ画面いっぱいに映ったとき、「これもCGかもしれないね」と
エノモトくんに言ってあげたら、
「いや、これはどう見ても花でしょ・・・。」
と真顔で返され、さらに腹がたったのを覚えている。

そのあとは、またエノモトくんはテレビに映るあらゆるものに
「これCGじゃねぇ?これCGじゃねえ!?」と
興奮気味で聞いてきたが、
ボクはそれを、すべて無視した。
あのエノモトくんが、いまどんな大人になったのか知らないけれど、
あれだけ全てのものにCGと疑いをかけていたエノモトくんが
あのとき、あの花たちだけなぜ「CGじゃない」と断言してきたのか
いま考えると・・・、やっぱり腹がたつ。

出演者情報:齋藤陽介 03-5456-3388 ヘリンボーン所属

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井村光明 2013年3月3日

「負け戦」

         ストーリー 井村光明
            出演 遠藤守哉

30分ぶりに赤い花が手渡され、僕は椅子から立ちあがった。
花といっても造花だけど。
白いボードを振り返り、石川4区の枝川くんの名前の上に花をくっつけた。
この選挙区は、野党から人気のプロレスラーが出馬して苦戦してたとこだっけ。
枝川くん、良くやってくれた。
会場に拍手が響く。でも、どこかうつろだ。
仕方ない。開票が始まって、もう4時間もたつのに、
250人の候補者名が書かれた白いボードに、花はちらほらしか咲いてない。
枝川くんで花をつけるのは最後かな。。
やっぱり、たくさん余っちゃったなあ、赤い造花・・・
僕は現職の総理大臣。
でも今は、政権与党の代表として、党本部で開票に臨んでいる。
あと数議席残ってはいるが、まあ焼け石に水だろう。
会場のソデには片目のダルマや、その横に大きな酒樽も見える。
ここだけじゃない。全国の候補者の事務所にも置いてあると思うと、
相当な数が無駄になったはずだ。
しかし、まさかここまでとは・・・惨敗だ。
敗因はいろいろあるが、とどめは、やはり景気対策だったのだろう。
高齢化による社会保障費と国の借金の増大。
僕は庶民派総理として、明るい未来のために、極力無駄をはぶき、
財政削減に邁進してみたんだけど。
その結果が、これだ。
そういえば、選挙準備の時、
「どうせ無駄になるんだから、当選者につける赤い花、
用意を半分くらいに削減してはどうか」という意見も出てたけど、
「縁起が悪いから」と人数分発注したっけ。
やっぱりこんなに余っちゃって。
まあ、花屋の景気には貢献できたかな。
景気対策で負けたのに、皮肉なものだ。

「お車の用意ができました。ご自宅でよろしいですか?」と、
秘書が耳打ちしてくる。
帰りたくないなあ。
いわばリストラだ。帰っても、妻や娘が、そして僕も気を遣う。
かといって、僕がリストラされたのは国民全員にもバレバレだ。
どこに行ったって、誰かに気を遣わせてしまうだろう。
そして、ここに居座るのも片付けの邪魔になる。
「千葉へ」と僕は言った。

「こんな時間に、何しに来たの?」
千葉の実家で一人暮らしの母は、まだ起きていた。
「いや、カーネーションがたくさん余っちゃってさ」
僕は、持ってきたダンボール箱を手渡した。
「あらまあ~。ん?あんたバカねえ。これはバラよ(笑)」
「あれ、そうだっけ?」
照れ臭い僕は、とぼけてみせた。
当選者用の余った赤い花。300輪はあるだろう。
政治家の母が、その意味をわからぬはずがない。
が、
「ありがと、こんなにたくさん。うち中がバラ園になりそうだわね~。
うーん、いい匂い」
「母さん、それ造花だよ」と言うと、
「わかってるわよ。ボケてみただけ~」と言って僕を笑わせてくれた。
母は、もう85だ。まだ達者だが、本当にボケる日も近いだろう。
選挙では、国民や企業や労組や各種団体から応援してもらった。
しかし、それは一瞬で、恐ろしい「貸し」に変わる。
妻や娘たちからの声援ですら、重たいものとなる。
しかし、母は、別だ。
「何か食べるかい?あんたのことだから一生懸命やったんだろう。
気にすることないさ。」
もし僕が戦争を起こし日本を焦土にしてしまっても、
母は同じように言うのだろう。
「モンスター」と呼ばれることのなかった、僕たちの親の世代。
高齢化社会は大変だと言うが、
僕たちを無条件に受け入れてくれる母さんや父さんが、
まだたくさんいてくれるということなのだ。
ずっと生きててくれないと、こんな夜、行く場所がなくなっちゃうよ・・・
だからこそ、将来の負担増に備えて、財政支出は切りつめとかないと、って
思ったんだけどなあ。
ばらまくんだろうなあ、新しい総理。
母は、「がんばれがんばれ。」と見送ってくれた。
あと数日で総理じゃなくなっちゃう僕だけど、
もちろんこれから野党としてがんばる所存だよ!応援よろしくね、母さん。

出演者情報:遠藤守哉 青二プロダクション http://www.aoni.co.jp/

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中山佐知子 2013年2月24日

ワンゼロ

            ストーリー 中山佐知子
               出演 大川泰樹

1はイエス、0はノー。
0と1の信号でアイラブユーのアルファベットを書いたら
41のイエスと39のノーを数えた。

1が戦争、0を平和にすると
アイラブユーは41の戦争と39の平和になった。
その戦争の数はいま現在世界で起こっている戦争よりも
たぶん、少しだけ多い。

1を晴れ、0を雨にする。
41の晴れた日と39日のどしゃぶりのアイラブユーになった。
曇りの日はない。たぶん小雨の日も。
1と0だけの信号には0.5や0.9がない。
あなたに会いに行こうかどうしようかと迷う
雨上がりの夕暮れもない。

1は存在、0 は不在。
そこにあるかないかだけの意味しかない。
電話に出るか出ないか。
ノックの音に応えるか応えないのか。
そして待っている僕のところに
あなたは来るのか来ないのか。

気温が下がりはじめた暮れがたに
家並の背後を流れる川で餌をさがすアオサギを見た。
冬枯れの川は水が浅く、餌はなかなか見つからない。
アオサギは何度もクチバシを水に差し入れ
やっと小魚を一匹つかまえる。
たくさんの0のなかの小さな1のおかげで
アオサギはこの冬を生きている。

その人生を意味するライフの文字に
1の生と0の死をあてはめると
人生は19回の生と13回の死だ。

生はいつも自分の隣に死を置きたがる。
0を含まない1は永遠の孤独だから。
そして不在のない存在も。

1は存在、0は不在。
ふたりを意味する2という数字を1と0の信号にすると
1がひとつ0がひとつのワンゼロになる。

僕が1のとき、あなたはゼロ。
僕のそばにあなたはいない。
あなたが1のときは僕がゼロ。
ふたりというのはそういうことだったのだ。
ふたりというのは誰かの不在を抱えることだったのだ。

暗い水の上で
アオサギはまだ餌をさがしている。
無数の0をクチバシで確かめながら
水の底の1をさがしている。

出演者情報:大川泰樹 http://yasuki.seesaa.net/

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小さなハル

「ちいさなハル・盛岡」

      ストーリー 山中貴裕
         出演 岡田優

国の訛りが恥ずかしくて、
バイト先ではあまり話をしない。
もっとも、小さな中華レストランの
皿洗いの仕事だから、
口を開く機会はそもそも少ない。
ラストオーダーが11時で、
店が閉まるのが11時半。
そこから掃除と後始末を済ませて、
タイムカードを押して外へ出ると、
もう0時を過ぎている。
薄いダウンジャケットのポケットに
両手をつっこんで、
真っ暗な商店街を早足で歩いて帰る。
冬だと、息が白く凍る。

そんな時、いつも思い出すのは、
ふるさと盛岡の厳しい寒さと
飼い犬だったハルのことだ。
明治橋の下に捨てられていた
ハルを連れて帰った俺に、父はひとこと
「弟ができたな」と笑った。
くんくんと腕の中でさびしそうに鳴く、
ぬくぬくとあたたかく、やわらかい小さな命は、
その日から、俺のたった一人の兄弟になった。
薄茶色の背中に鼻をすりよせると、
ひだまりの匂いがした。

19の冬、夢を持ってふるさとを出た。
夢が俺を、ひとりぼっちにした。
アパートの鍵をあける時、いつも、
部屋の中にハルがいるような気がする。

・・・もうすぐ春。花も咲く。
東北へ、帰ろう。

岩手の旅http://www.iwatetabi.jp/

岩手県産 味・技 通信http://www.iwatekensan.co.jp/

盛岡観光情報http://www.odette.or.jp/citykankou/frame/frame.html

盛岡タウン情報http://www.morioka.ne.jp/


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ハナサケニッポン

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直川隆久 2013年2月17日

砂漠にて

         ストーリー 直川隆久
            出演 遠藤守哉

茫漠たる砂の海を、もう何日歩きづめだろうか。
地平線を目でなぞり、集落はないかと探す。

と、視界の端に、地表から立ち上がる直線を見た気がして、ぎょっとする。
私はナップザックから双眼鏡を取り出す。
直線、すなわち構造物。
そんなものが、まだこの世に存在しているのか。あらゆる都市が壊滅し、
人間のほとんどが死に絶えたこの世に。

もう一度双眼鏡をのぞく…棒の上に、赤い光と…その横には、緑の光。
信号だ。
――信号?
この砂漠の真ん中に?

何ヶ月ぶりかで人工物を見た。
なぜそんなものがあるのか、それはわからないがしかし…
誰かが、何らかの目的で設置したことは確かだろう。
私の目は人間の影を求めて動くが、人間はおろかハゲタカ一羽飛んでいない。

それにしても――砂漠に立つ信号なんて、
まだ文明があった時代には滑稽に思えただろう。
だが今は!
この赤い光はなんと心に温かいことか!
私は魅入られたように、その信号に向かって歩を進める。
交通規制!
なんて懐かしい響き!
方向も変化もなく、ただただひろがる砂。砂。砂。
その無意味さに、私はもう耐えられなくなりそうだったのだ。

意味、目標、方向づけ、ルール。
そういったものがなければ心の平安がえられない。
やはり私は都市に適応した生物だったのだと痛感する。

そのとき、ぐらりと足元の地面が揺れた。

信号の下の地面が小山のように盛り上がり、
象の皮膚のような質感の巨大な肉の塊が姿を見せた。
そのてっぺんから信号が生えている。
私の足元に直径10メールばかりの黒い穴がぼかりと空いた。
足の下の砂が、奔流のように、その穴に流れ落ちて行く。
しまった…
そうか――この信号は、いわばチョウチンアンコウのチョウチン――
誘引突起だったのか。
スナクジラとかいう化け物の噂を、ずいぶん昔、聞いたのを思い出す。

私は、地すべりのような砂の流れと一緒に、
その得体の知れない生き物の口に飲み込まれてゆく。
文明消滅後の人間心理まで利用するとは、
自然の叡智というやつはまったくはかりしれない――

出演者情報:遠藤守哉 青二プロダクション http://www.aoni.co.jp/

 

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佐倉康彦 2013年2月10日

補色、不調和

    ストーリー 佐倉康彦
       出演 岩本幸子

それは、
随分と前から私に送られていた。
そのシグナルは、
何度も、その輪郭や匂いを変えて、
繰り返し、繰り返し私のもとに
届いていたはずなのに、
私は気づかなかった。
正確には、
気づかないふりをし続けてきた。
かたちや匂いや、その温度は、
送られる度に変わっていたけれど、
色だけはいつも同じだった。
どこまでも深く押し黙ったままの、
吸い込まれるような青。
きょうも、
私のどこかが感じはじめていた。
なのに意識を押し曲げて、
斜めにして、
歪めたまま、
真逆を向いて遣り過ごす。
いつのまにかそれは、
私のもとから後退り、静かに霧散する。
着信を報せるLEDの青く凍った点滅が、
ゆっくりフェードアウトし、沈黙する。
消えた光の行き先は私にもわからない。
ただ、その光の残像が、
治りかけていた傷口のむず痒さのように
私を甘く幽かに擽る。
瘡蓋を剥がしてしまえば、
その朧気な感覚は、
小さな痛みに変わるはずだ。
そして、
そこから赤い滴が膨らみ、
大きく盛り上がり、
いずれ傷口から流れはじめる。
思わず爪を立ててしまいそうな
自分を制して
私は、フリーズしたまま立ち竦む。
まだ、前に進むことはできない。
20メートルほど先で佇む、
もう一方の私は
真っ赤な光の中から、
こちら側を睨め付けている。
じきに青い光につつまれることを
予感しながら。
それまでは、
ここから一歩も前には進めないことを
私は思い知っている。
私に送られてくる青いシグナルは、
赤い赤い私を補ってくれるのだろうか。
それは、きっと叶わない。
あまりに純度の高い青は、
真っ赤な私のそばにいることを
許されないだろう。
その青と
わたしの赤のせいで
眼も心も眩む。
外科医の羽織る手術着の薄い薄い儚げな青色は、
流れ出た赤の、残像を消してくれる。
そう、血の色は、消せる。
だから、
私には
もう、濃密な青はいらない。

出演者情報:岩本幸子 劇団イキウメ http://www.ikiume.jp/index.html

 

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