一倉宏 2011年3月6日



  野原さんを見ていたら

             ストーリー 一倉宏
                出演 山田キヌヲ

野原さんは
自分のなまえについて 意識してないと思うけど
私は あるとき 見たことがある
野原さんが 野原に寝転がって 昼寝をするのを

野原さんが 野原で昼寝する姿は
なんというか さすがというか 絵になっていた
野原さんのご先祖は きっと野原の近くに暮らしていた
そしてきっと その野原が好きだったと思う

小川さんのご先祖も とにかく
小川と関係のあった方だろう
いま 私の知っている小川さんの家の近くに
小川はなかったと思うけど
小川さんが 小川で釣りをする姿も よさそうだ

田中さんの家のまわりに 田んぼはない
新宿まで電車に乗って 20分の町だから

大庭さんの家の庭は そんなに大きくない
桜木さんの家の庭に 桜の木はない

そういえば
八月一日 と書いて ほづみ と読む
どの漢字が ほ で づ なのかわからない
珍しいなまえの 同級生がいたけれど
八月一日 じゃなかった ほづみさんの
誕生日は 八月一日 じゃなかった

それから
大森さんのお嬢さんは 中森さんと結婚して
二世帯住宅に住んでいる

大森さんの家には 大森 中森の表札が並んでいる
大森さんには 女の子のお孫さんがいる
将来その子が 小森さんと結婚したら
大森 中森 小森の家族になる

大山さんと 中山さんと 小山さん
大野さんと 中野さんと 小野さんの
家族だっているだろう

いつか結婚式場で
秋田家 春田家 披露宴 と書いてあるのを見た
なんだか ちょっと微笑ましかった

母の友だちの 良枝さんは
吉江さんと結婚して 吉江良枝になった

私の友だちの 亜希ちゃんは
もしも 安芸さんというひとが好きになったら
どうしようと いまから悩んでいる
安芸亜希 の後に です は付けにくい
安芸亜希です と いいにくい

小田くんが好きになった 麻里ちゃん
小田麻里

大場さんからプロポーズされた 加奈さん
大場加奈

ありうるよね じゅうぶんに
でも ほんとうに好きになったら
結婚するよね

私のなまえは 萌(もえ)
野原に寝転がった 野原さんを見ていたら
ふと 野原萌 という 組み合わせに気づいて
胸のあたりが 熱くなった

出演者情報:山田キヌヲ 03-5728-6966株式会社ノックアウト所属

shoji.jpg  
動画制作:庄司輝秋

Tagged: , , ,   |  コメントを書く ページトップへ

吉岡虎太郎 2011年2月20日


「あけましてピヨピヨ」

             ストーリー 吉岡虎太郎
                出演 地曵豪

ああ、今年も書かなかった。
…と後悔してしまうのは、
ポストに届いた年賀状の束を眺める時だ。
不義理をしている、と思う。

「年明け年賀」というものがあると知って、
それはとてもいい考えだと思ったが、
思っただけで、やっぱり実行できなかった。

世の中は善意の人たちで
構成されていると思うのは、
「俺は年賀状を出したのに、
お前は返してくれないじゃないか」
と責められたことが一度もないことだ。

それとも、心の中では激しく僕を責め立てていて、
「M-1どうだった?」とか、
「もち何個食った?」などと
何気なく接し続けることで、
婉曲的に、僕に自責の念を呼び起こそうと
しているのだろうか。
だとしたら、それはあまりに婉曲すぎる。無意味だ。

無意味なコミュニケーションといえば、
ツイッターのフォロワーという人々とのやりとりだろう。

昨年ある日突然、ピヨピヨママン(仮名)なる
子持ちの人妻からメッセージが届いた。
「おひさしピヨ~。私のこと覚えてるピヨ?」
なれなれしい口調だが、驚くべきことに、
まったく記憶にない。

高鳴る胸。湧き上がる期待。震える指。
「たぶんわかると思うけど…、ヒントはありますか?」
「昔の友達ピヨ~」
「大学の友達でしょうか?」
「ちがうピヨ~」
「バイトの仲間ですか?」
「全然ちがうピヨ~」
「あの、もう少しヒントをもらえるかな(笑)」
「あ~、忘れてるピヨ!」
「いやいや…(汗)」
「ひどいピヨ!」「ごめんピヨ!」
「ピヨピヨ!」「ピヨーン!」
…僕は疲れ果てて連絡を絶った。

このような不安定なコミュニケーションと比べて、
年賀状ははるかに人間らしい、
温もりのあるつながりを提供してくれるはずだ。
なのに、もう、何年も書いていない。

…そうだ、「思いつき年賀」というのはどうだろう。
一年のいつでもいい、思いついた時に、
思いついた場所からメッセージを送るのだ。

桜舞い散る春のうららかな午後、
猛暑の予感に包まれた夏の朝、
天高く馬肥ゆる秋の夕暮れ、
眉間にしわを寄せ、一枚のハガキを手に、途方に暮れる人々…。

「あけましてピヨピヨ」

今日は2月1日。旧い暦ではお正月だそうです。
ことしも、よろしくお願いします。

出演者情報:地曵豪 http://www.gojibiki.jp/

shoji.jpg  
動画制作:庄司輝秋

Tagged: , , ,   |  コメントを書く ページトップへ

画伯としての庄司輝秋 3

画伯としての庄司輝秋はまあまあいけると思う。
2月の黒須美彦さんの「恋するモノローグ」の動画も
庄司輝秋の絵だ。

しかし、人としての庄司輝秋は不注意力が高い。
ACCやTCCの締め切りを見逃したりする。
さらにこの世界というものをゆるく認識する傾向にあり
「フライヤー号が離陸する音」を効果音として原稿に書き込んだりする。
1903年のノースカロライナ州で効果屋さんが録音機を持って
ライト兄弟の初飛行の様子を録音していると思っているのかな、庄司は。
初飛行を見守るわずか5人の観客のなかに
マイクをかまえた効果屋さんがいたと思っているのかな。
そもテープレコーダーの原型がやっと完成したのは1928年なのだがな。

さて、そんなことで
不注意力が高く世界認識のゆるい庄司は
この番組ムービーをつくるのもおそい。
つくるのが遅いというより取りかかるのが遅いのだ、たぶん。
その遅さは、週末は飲みにも行かず芝居も観に行かない私が
いつもパソコンの前にいて
自分が送った動画を即受け取って作業をするというゆるゆるい認識に
基づいているのだと思う。

本日配信の吉岡虎太郎さんの動画「明けましてピヨピヨ」も
さきほどやっと届いた。
まあ届けばいいのだが
庄司の場合、「つくることそのものを忘れているのでは」という
不安がいつもつきまとう。

これがいちばん困る(なかやま)

Tagged:   |  コメントを書く ページトップへ

黒須美彦 2011年2月13日


恋するモノローグ

    ストーリー 黒須美彦
       出演 瀬川亮 内田慈

「きっもちいいねー」
「あ、そうだね」
「走ろう」
「え、ああ」

k 今日は、柏木さつきと
  二回目のデートだ。
  デートと呼ぶにはうぶな代物かも知れないが

「あ、月がでてるよ。昼間なのに」
「ああ、そうなんだ、
 白夜月は、
 月齢にもよるんだけど、
 特に冬、上限の月だとよく見える」
「ふーん」
「いま、暦の上では立春だけど、
 まだまだ寒いから…」
「戸田君、詳しいんだね、天気のこととか…」

k あー、なんかつまんない話してるな、俺…
  いつも、こうだ。とりとめくて、雲や星の話ばっかりして、
  まあ、天文部の部長なんだけどね…
s ねえ、
k ん?
s ねえ、君、いま、つまんない話してるな、俺、
  って思ってたでしょ?
k 誰?なに?
s 柏木さつきのココロの声、モノローグね
k ココロの声って
s ええ、君が戸田浩一郎のココロの声なのと、おんなじこと。
  でも、たしかに、退屈だよね。
k え、それって、なに、会話できちゃうわけ、僕たち
s ま、そうなんじゃないの、一種のテレパシーみたいなこと?
k それって、すごくない、
s うーん、そうかな、現にこうやって話しているわけだし、
  そんなことより、君はどう思うわけ?
k どうって
s この、じれったい感じよ
k ま、でもしかたないんじゃないの、悪気はないんだし
s 悪気とかじゃなくって、リビドーないの?
k リビドー?
s 性的衝動
k そりゃまた、ずいぶん、いきなり
  ものには順番てのがありまして?
s なに、じいさんみたいなこと言ってんのよ 
  さつきのキモチになってみればね…
k あれ?さつきのキモチって、
  君はココロの声だから、
  キモチそのものなわけじゃない、
  まそれは、話がこんがらがるから、おいといて、
s うん、そうしといてくれる。
  つまり、戸田君が、どんだけ強く、
  さつきを思ってるかってこと。
k ああ、好きだよ。彼、ていうか俺、
  病的なくらいにね。毎朝四時に、
  さつきが好きだって、
  きゅんと胸が締めつけられて、
  起きたりしているし
s そこまで。それを押し殺しちゃってるんだね。
k そうなんだ。
s あー、でも、いま地動説に行っちゃったよ、はなし
  せめて音楽とかの話題ないの?
k そっちもわりとマニアックなんだ
s たとえば?
k ベル&セバスチャンとか、
s あ、ベルセバなら、さつきも大好き
k なんだ、じゃ、ちょっと待ってて、
  話題変更を命令中枢に指示するから
  ベ、ル、セ、バ…、
  最近のアルバムの話でいいか…

s ね、キスしてよ
k ん?
s キス、しよ
k キスって、僕たちココロの声だよ
  まだ本人達もしてないのに?
s だから、ココロでするのよ
k どうやって
s してみて
k あ、こ、こうかな
s ちょっと違う
k じゃ、こう
s …
k …
s なんとなく、そんな感じかも
k 実感ないけどね
s でも、なんか、いい感じかも、
k 余韻があるね…
s あ!

「あ、バイトの時間だ、あたし行かなくちゃ」
「あ、もう、そんな時間か」
「でも、楽しかったよ、握手」
「うん」

k 本人達より先越しちゃったけど
s 続きが楽しみだね
k じゃ
s また

出演者情報:瀬川亮内田慈 30-6416-9903 吉住モータース所属

shoji.jpg  
動画制作:庄司輝秋

Tagged: , , , ,   |  コメントを書く ページトップへ

画伯としての庄司輝秋 2



画伯としての庄司輝秋はまあまあである、と
私は思っている。
それなりに雰囲気のある絵を描いて動画をつくり
その中に1枚、おっこれいいなと思うのが混じっていたりする。
23日にアップした西島知宏さんの動画も庄司の絵だ。

ところで、人としての庄司輝秋はどうかというと
体格には大人の風格がある。
顔も大人の笑みを浮かべている。

しかし、わりと慌てものだと思う。
先週もせっかく送ってきた動画が古い動画だった。
ファイルの選択を間違えたのだ。
しかし、庄司はあせっていてもあせっている風には見えない。
大人の風格にものをいわせて悠揚たる態度に見せかける。

私があせりまくって電話をしてもメールを送っても
翌朝まで返事がなかったのも大人の為せる技だろうと思う。

このまま庄司を放置しておくと本物の大人になるかもしれない。

ところで、この記事における「大人」は「たいじん」と読んでもらいたい。
その意味は、「徳の高い人。度量のある人。人格者。大物。」
である(なかやま)

Tagged:   |  コメントを書く ページトップへ

西島知宏 2011年1月23日

「あるウサギの一生」

         ストーリー 西島知宏
            出演 坂東工

2011年1月5日、
ウサギ年になってからの初出社はいきなり徹夜だった。
厳密には1月6日の朝、僕は着替えるためだけの帰路で、
運命的な出会いをする。

彼女はまさにウサギのように白い肌を
ふわふわのタートルネックの袖から覗かせ、
大きなトートバッグを膝の上にちょこんとのせていた。
ウィキペディアに“お嬢様”という項目があるなら、
彼女の写真を載せるべきだ、それほど僕にとって理想的な容姿を持った
色白で透き通るような女性だった。

この路線のどこかに、
彼女の職場があるのだろうか。
幼稚園の先生でもしているのだろうか。
僕は彼女を直視しないまでも
頭の中を想像でいっぱいにしていた。

その日の夜、毎日つけている日記に僕は、冗談まじりにこう記した。
“ウサギ年にウサギの彼女と出会う”

それから、徹夜で朝帰りする時は決まって
その電車を使うようにした。

彼女はいつも、同じ電車の同じ車両にいた。

その年のある春の日。彼女はいつもの電車でめずらしく居眠りしていた。
彼女の居眠りはトートバックを持つ手の圧力を弱らせ、
電車の揺れの拍子にバックを床に落下させた。

少し離れた所からそれを見ていた僕は、
彼女が落としたバッグの中から飛び出した“あるモノ”を
俄に信じる事ができなかった。

どうしてこんなものが?

その日の日記にはこう記した。“何かの見間違いだ”

次の徹夜の朝も、その次の徹夜の朝も、
いつも通りの変わらない彼女を見かけた。

僕は次第に、あの日見たモノは本当に何かの間違いだったと
信じるようになった。

夏が過ぎ、秋が過ぎ、季節は彼女と出会ってから1年目の冬を
迎えていた。

そんなある日、彼女は殺された。

僕はそのニュースをラーメン屋で流れていた昼のワイドショーで見た。
その日から会社を数日休む事になった。

美女が殺されたというニュースは、
マスコミの格好のネタになり、
連日各局は報道合戦を繰り広げる事となった。
そして次第に世の中に事件の詳細が明らかになっていった。

僕が見ていた朝の彼女は通勤なんかではなく、仕事帰りだった。

そして、あの日バッグから飛び出したモノは見間違いなんかじゃなく、
やはりガーターベルトだった。

ニュースキャスターはこうも伝えた。
彼女は会員のみを相手にする売春宿で働いており、
その店のウリは質の高い女性の容姿と、
彼女達が着ているバニーガールとガーターベルトの衣装だった、と。

僕は、消失感とともに間近に迫ったウサギ年の終わりを感じていた。
ウサギ年に出会ったウサギのように真っ白い彼女との終わりを。

その年の最後のニュースで、ニュースキャスターは新たな事件の情報を伝えた。
犯人は被害者ともみ合った際、利き手に凶器のナイフで傷を負っている可能性が高い、と。

僕は、そのニュースを見終えると、コンビニで買って来た年越し用の
カッブソバにお湯を入れ、利き手じゃない方の手ですすった。

そして、その年最後の日記にこう記した。

「僕だけのウサギにしたかった。」

出演者情報:坂東工 http://www.takumibando.com/

shoji.jpg  
動画制作:庄司輝秋

Tagged: , , ,   |  コメントを書く ページトップへ