田中真輝 2016年12月4日

tanaka1612

流星群

    ストーリー 田中真輝
      出演 齋藤陽介

中学生の頃、僕は夜遊びばかりしていた。
といっても、住んでいたのはドがつく田舎。家の周り
にあるのは、田んぼと畦道。あと、墓と寺。
近所にはコンビニなんかなくて、
夜遅くまで開いているのは、小さな酒屋兼立ち飲み屋か、
しょぼくれたスナックしかなかった。
そんな最果ての地でできる夜遊びといえば、もう、ただぶらぶらと
歩くだけのこと。心細い街灯を頼りに、毎晩農道を一人で歩いた。
時々その小さな酒屋でアイスや缶コーヒーを買い食いした。
別にぐれていたわけではないから、タバコを吸ったり、
酒を飲んだりはしなかった。
どちらかというと、優等生だった。
波風立てずに、そこそこの成績を収め、そこそこクラブ活動に
励み、そこそこみんなと仲良くしていた。
そして、そんな自分が心底嫌いだった。
一人で部屋にいると、底なしの穴に落ちていく気がした。
だから、夜な夜な農道を歩いた。そこそこ歩いたら、
盗んだバイクで走り出したりせず、折り返してまっすぐ
家に帰った。結局のところ、逸脱だってそこそこだった。

ある冬の夜、いつものように夜道を歩いていたら、
上の方から僕の名前を呼ぶ声がした。
田舎の夜空は星が多くて明るい。その明るい夜空を背景に、
黒々と建つ一軒家の屋根のあたりで、誰かが手を振っていた。
僕は、それが新井であることを、声とシルエットから察した。
新井は東京から来た転校生で、抜群のイケメンだった。
成績も申し分なく、スポーツもでき、愛想もよかったので、
新しい環境に瞬く間に馴染み、いわゆる人気者になった。
僕はそれを、違う星から来た異星人を眺めるように見ていた。
星を背負った異星人の新井は、綺麗な標準語で、
上がってこいよ、と言った。
彼の家には大きなベランダがあって、そこには外付けの階段で
上がることができた。
僕は素直に彼の言葉に従った。
田舎には何もないけれど、何の役にも立たない星だけは腐るほどある。
新井はそんな、バカみたいな夜空を見上げながら、
今日は流星群の日なんだぜ、と言った。
ほら、と新井が見上げる視線の先を追いかけると
何かが視界の端っこで走る感覚があった。
と、思う間に、また視界のやや外れを星が流れた。
素晴らしいスピードで。
空を埋め尽くす星の間を、カミソリで切り裂くように
いくつもいくつも星が流れた。
星の光が、夜空を何度も何度も切りつけているように見えた。
二人とも、長い間そうして夜空を見ていた。
二人とも、何も言わなかった。
何十という流れ星を黙って見送ったあと、
新井が「俺、いつ死んでもいいなあ」と言った。
唐突な言葉には聞こえなかった。
その時、その場に、とてもしっくりくる言葉だと
思った。そこにあったすべてを丸めて放り込んだ
ような言葉だと思った。
だから僕は、「わかるよ」と答えた。
そうしたら、新井はこう言った。
「お前なんかに、俺の気持ちがわかるか」

それ以降も、新井はクラスの人気者だったし、僕にも
これまで通り、何もなかったように普通に接した。
今まで通り、愛想のいい、素敵な転校生。
あの日を境に、変わったことなど何一つなかった。
そこそこの浮き沈みを繰り返しながら、毎日は
淡々と過ぎていき、そうこうしてる間に、新井は
別の場所に引っ越していった。
みんな少し残念がり、そして忘れた。

今でも、流星群がやってくると聞くと、新井のことを
思い出す。そしてその思い出は、
心の奥の方にある、暗い場所をカミソリのように、
さっと切り裂いて、消える。

出演者情報:齋藤陽介 03-5456-3388 ヘリンボーン所属

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田中真輝 2016年11月13日

hiiragi

「鬼門」

    ストーリー 田中真輝
      出演 遠藤守哉

えー、くだらない噺を一席。
近頃では何かとAIだ、バーチャルリアリティだと、
とかくデジタルの世界が騒がしくなっておりますが、
毎度お馴染み、八っつぁん、熊さんの住むお江戸が、
仮想空間にバーチャルな環境として作り上げられる時代も、
そう遠くないのかもしれません。

おーい、熊さんてえへんだ。
なんでえ、八っつぁん。かみさんが川にでも落ちたかい。
そんなことになったら川が雪隠詰めで大洪水だよ。
ちがうんだよ熊さん、
大江戸バーチャルスケープのセキュリティゲートが
クラックされて、てえへんなんだよ。
おおそりゃまたてえへんだ。
八丁堀のゲートキーパーが居眠りでもしてたのかい。
それがどうやら同心レベルのセキュリティプログラムに
致命的な欠陥がみつかったらしい。
そりゃまた物騒だね。どうして今までわからなかったんだい。
それがまた粗忽な話でね、
スケープを立ち上げた時点でアセンブラに
成長型のAIクロウラーが書き込まれてたらしくって、
そいつの脆弱性がコンバージェンスの度に、
少しずつコラプション起こしてたってんだから、しようがねえ。
なんだいそりゃ、粗忽だねえ。書いたやつ呼んできやがれ、
俺がそのツラ書き直してやる。
それで火消しの連中は何してるんだい。
いろは四十八組総出で当たってるが、
相手は火事じゃねえ、ばけもんだ。
越後屋のでっちの方がまだ役に立つって話だよ。
なんでえ、たよりねえ。ばけもんったって、
たかがローカルのマルウェアだろう。
大騒ぎするようなことかね。
それが熊さん、そうでもねえんだ。
与力も腰抜かすほどのガウリレベルの敵性ジャーゴンらしい。
さながら通りは百鬼夜行、触れるもの皆、
ばったばったと量子崩壊さ。
これで大江戸バーチャルスケープ3000年の泰平も
一貫の終わりかと思ったそのとき、現れたのが鍾馗様よ。
おうおう、鍾馗様ってぇと、端午の節句の、あの、鍾馗様かい?
ご名答、まさに鬼より怖い鍾馗様のご降臨よ。
身の丈10間にもなろうかって、大入道が通りにいきなり降って湧いて、
魑魅魍魎をばったばったとプランクレベルまで分解し始めた。
その姿が、まるで鍾馗様そっくりだったって話よ。
そりゃあ妖怪どもも度肝抜かれただろうに。
おかげで百鬼夜行もどこへやら、通りに転がるのは、
ぼてふりでも踏み潰せる程度のジャンクウイルスばかりとなりにけり、
ときたもんだ。
さすが鍾馗様。
しかし八っつぁん、その鍾馗様そっくりの大入道は一体全体、何者なんだい。
このお江戸スケープじゃ、
5間を超えるサブスタンスは認可されちゃいねえはずだ。
それが熊さん、えれえ話で。
安楽寺に逗留中の謎の坊さまの話を聞いたことはねえかい。
ああ、2、3ヶ月前に寺の前で行き倒れてるのを、
安楽寺の和尚が見つけて以来、世話してるっていう、あの坊さまかい。
その坊さまが、実は、アルファケンタウリ星系からやってきた、
未知の知的情報生命体だったってのが、もっぱらの噂でね、
その知的情報生命体が、鍾馗さまの正体だったらしい。
お江戸の危機と見るや否や、
そいつが江戸スケープのグランドプロトコルをぶちぬいて、
巨大化したって話だ。
そりゃまた奇想天外な話だね。なんでまたそんな宇宙人みたいなやつが、
お江戸の危機を救ってくれたんだい。
宇宙人にも、一宿一飯の恩義ってやつがあったんだろうよ。
強力なバーチャルナノマシンを撒き散らして、
妖怪どもを一網打尽にしたあと、煙みたいに消えちまった。
しかしまあ、敵性ジャーゴンウイルスには、不運なこった。
そこだよ熊さん。敵性ウイルスがこじあけたセキュリティゲートは、
安楽寺の真裏、鍾馗様が睨みを効かせる、うしとらの方角だ。
それがどうしたってんだ。
つまり、敵さんにとってはゲートはゲートでも、鬼門だったってことよ。

お後がよろしいようで。

出演者情報:遠藤守哉はフリーになりました。

 

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田中真輝 2016年10月23日

tanaka

「尻尾切り」

    ストーリー 田中真輝
      出演 遠藤守哉

尻尾(しっぽ)切除整形手術が流行しだしたのは、3年ほど前のことである。
起点となったのは、意外にも40代の男性ビジネスマン。
長引く不況を抜け出せず、新しいビジネスモデルも見えない閉塞感の中、
どこかの企業が事業効率化の流れの中で、
冗談半分に始めたことだったらしい。
指示された社員もたまったもんじゃないと思うが、
意外と反対の声も少なく、
あれよあれよという間に社員全員、さっぱり尻尾を切除した。
とかげの尻尾切りと違うのは、当人が切られた尻尾なのではなく、
残った本体だというところで、
「新型とかげの尻尾きりで経営改善」と、いっとき週刊誌を賑わせた。
もちろん、とかげと違って新しい尻尾が生えてくることはないのだが。
それまで尻尾について、多くの人がちゃんと向き合ったことがなかったので、
この「尻尾切り」は、尻尾の存在意義について、
誰もが改めて考える契機となった。
市井の人々は尻尾切りに概ね好意的だった。
なくてもいいじゃん、というのがその主たる理由である。
古いタイプの人々は細やかな感情表現の手段が失われることを嘆いたが、
尻尾が自分の意図とは関係なく細やかな感情を表現してしまう方が、
当世、問題である。個人情報の流出の原因と捉える向きもあるほどだ。
キャリア志向のビジネスマンに対するセミナーでは、
「尻尾による感情表現の抑え方」が、真偽のほどはともかく、
せっせと行われている。
若者に至っては、積極的に尻尾切りに賛同する声が多かった。
運動するとき邪魔だし、尻尾の形状によっては、いじめの対象にもなる。
妙な感情や個性が見える化してしまう方が、
若者にとっては、いっそ問題で、
大人しくみんなと一緒にしていた方が安全、というわけだ。
ということで、社会的な認知と受容のフェーズを経て、
尻尾切りはじわじわと、そしてやがて急速に世間に広がっていった。
「尻尾切りブーム」の始まりである。
街場に雨後の筍のように「尻尾切りサロン」が誕生した。
物理的に切り落とすだけなので、施術自体はそう難しいことではない。
施術後、さっぱりした姿で現れる友人や同僚を見て、
施術を受ける人は、どんどん増えていった。
これを受けて、アパレル業界にも動きがあった。
尻尾チャックのない衣服の大流行である。
尻尾穴、および尻尾チャックのない衣服のつるんとしたデザインに
最初は皆、幾ばくかの物足りなさを感じたが、
そうした違和感はあっという間に薄れていき、
むしろ腹巻のように古臭いものとして廃れていった。
こうなると尻尾がある人の方が時代遅れとみなされる。
まだ尻尾なんか生やしちゃってと、眉をひそめられるに至って、
尻尾保護団体が生まれ、
尻尾を保持する権利と自由を主張する声が一時マスコミを賑わせ、
そしていつものごとく速やかに忘れ去られていった。
人々から尻尾が失われても、いい意味でも悪い意味でも、
社会に目に見える影響はほとんどなかった。
くだんの「尻尾切りで経営改善」を掲げた会社は、
やみくもな経営の効率化がたたって、しばらくして倒産したらしい。
皆、これまで通りの日常を、これまで通り過ごしていた。
多くの人が尻尾切りを完了し、ブームもひと段落ついたある日、
ある私立大学の社会学教授が
「尻尾切りブームによる日本社会の変化と遷移について」という
論文を発表した。
そこには、尻尾切り以前と以後では、
人々の意識と行動に有意な変化が見られることが、
データとともに示されていた。
様々な事象に対する突発的な行動惹起度が上がっている、というのだ。
つまり、簡単に、一言で言えば、
「人々が前のめりになっている」と教授は語る。
恐らくこれは、尻尾を失ったことによって、
重心が前がかりになっていることに起因していると教授は分析し、
さらなる追加調査によって仮説をさらに検証していく、と
論文は締めくくられていた。
確かに、社会的には「前のめり」とも思われるような出来事が
増えているように思えた。
それまで盛んに騒がれていた効率化は
そのスピードをさらに上げているように見える。
個人や集団の意図が先行して、
調査や分析が十分でないまま物事が進行するケースが散見した。
決断と行動のスピードが上がった、というポジティブな意見も多かったが、
こと、憲法改正問題が議会の承認を得ぬまま、
ものすごいスピードで進行していくに至って、
一定数の人々の中に疑念が芽生えた。
いくらなんでも前のめりすぎはしないか、と。
しかし尻尾がなくなることによって重心が移動した人間たちは
もはや、前のめりの姿勢に抗うことはできない。
好むと好まざるに関わらず、思考を司るのは肉体なのだ。
憲法改正を含む様々な重要事項決定のプロセスが、
どんどん前のめりになり、決断のスピードは上がっていった。
この加速感を危ぶみ、熟慮と再考を求める声も各所で聞かれたが、
これらもまた前のめりな意見によってことごとく踏み潰され、
日本は行方の知れぬ未来に向かって脇目も振らずに疾走し始めた。

出演者情報:遠藤守哉はフリーになりました。

 

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田中真輝 2016年8月14日

1608tanaka

「流れにまつわる追想」

      ストーリー 田中真輝
        出演 石橋けい
  
夏。昼下がり。蝉の声がやんでいる。先ほどまであれだけやかましかったのに。
曽祖父の代からうちにある大きな振り子時計。その振り子が揺れるたびにカチ
カチという音だけが聞こえている。縁側から差し込む日差しを避けるようにし
て畳の部屋にできた日陰の中に体を横たえていると、冷たい畳の肌触りが心地
よくてついまた眠ってしまいそうになるけど、さあっと吹き込んできた風に、
雨の匂いを嗅ぎ取ってもう眠れない。あのときも今と同じように、夏の日差し
を避けて薄暗い畳の上で気だるく横たわっている私の目を覚まさせたのは、ど
こか少し生臭いような雨の匂いだったのだけれど、それは外からの風に乗って
運ばれてきた夕立の気配などではなく、いつの間にか目の前に立っている女の
濡れそぼった体から水滴がしたたり落ちて畳の目地に沿って流れていくしずく
のその流れによって運ばれてくる水の匂いが、わたしの鼻先をかすめて、水そ
のものの流れよりも先に部屋の外へ、庭土の上を小さな流れとなって、降り始
めた雨といっしょくたになって、やがて冷たく暗い穴の中へ滑り落ちていくと、
そこはもう海の匂いがする、と思うわたしは、いつの間にかまた少し眠ってい
たようで、目を上げると、もうそこには先ほどの濡れそぼった女はおらず、水
を吸い込んで足の形に黒く沈み込んだ畳が見え、そこから立ち上る水の気配の
ようなものだけがゆらゆらと、カチカチと聞こえてくる振り子の音をくぐり抜
けるように、ゆらゆらと揺らぎながら暗い部屋の天井の方へとのぼっていくと
そこには、同じようにのぼって行った水の気配が逆さまに溜まってゆらゆらと
揺れる水面があり、畳の上にだらしなく横たわるわたしのシルエットが逆さま
に映ってゆらゆらとゆれている。そのとき。ざっと。庭の木々を打つ。雨の音。
かきけされる。振り子時計の。カチカチ。いう音。一瞬の、闇。
闇の中に戻ってくる。濡れそぼった女から打ち寄せる、波のように打ち寄せる
息遣いがわたしの前髪をさらさらと揺らし、さらさら揺れる前髪をすり抜けて
届くその湿った息遣いがわたしのまつげに触れ、わたしのまぶたを覆うように
して閉じていくと思う間に、天井にとどこおっていた水面のさざめきがひとと
き収まって、鏡のようにわたしの姿を映すとその姿を抱えたまま、縁側に向か
って開かれた空間へと一気に溢れ出し、流れ出す先にあるのは先ほどまでの激
しい雨の気配だけを残して垂れ込め渦巻く質量をともなった雲の塊へとあまあ
いをついて空へと落ちていく落ちていくわたしはどこまでも空へと流れ落ち運
び去られていってもう取り返しがつかない。

出演者情報:石橋けい 03-5827-0632 吉住モータース

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田中真輝 2016年3月13日

tanaka

「葉桜」

        ストーリー 田中真輝
           出演 清水理沙

あなたは、桜が好きな人でした。
それも満開の桜ではなくて、花もあらかた散ってしまって、
若葉が出始めたような中途半端な桜。

ほら花が咲いた、ほら散ったと、かしましい人々を見下ろしながら、
桜は淡々と、しかし力強く命のサイクルを進めていく。
そんな桜の命の営みが見えるような、若葉の頃が好きなんだと、
あなたは言いましたね。
そんなあなたがいなくなって、もう何度目の春でしょう。
数えることも、もうやめてしまいました。

あの狂乱の日々のしばらくあと、あなたが行ってしまう前に、
最後に二人で見上げた葉桜を、わたしは今、一人で見上げています。
あなたのことを想いながら。

あれが起きたのはもう大昔のこと。
日本語では「技術的特異点」というのだと、あなたはわたしに教えてくれました。
「シンギュラリティ」。それは有史以来の人間の日々の延長線上に、
突如としてやってきました。まるで桜が満開になるように。
その日、コンピューターの知性は、ついに私たちの限界を越え、
そして一気に抜き去りました。
そこからは一気呵成。気がつけば、それはもう私達には理解の及ばない、
謎めいた存在になっていました。
神という人もいました。悪魔と言う人もいました。
人々の熱狂と混乱を見下ろしながら、それはやがて人間に静かに告げました。
あなたたちに永遠の命をあげましょう。
あとは好きなように生きればいい。
かつてコンピューターだったものは、今や人間のすべての情報を電子化し、
電子の世界で生かすことができるようになったと語りました。
そこには病気も死も別れも苦しみもないのだと。
究極の自由がそこにあるのだと、はがねの口で語りました。
はじめ、人々は懐疑的でしたが、死を直前に迎えた人々が
そちらの世界に移住し、そこにある自由と解放を語るに至って、
多くの人々が雪崩を打って電子の世界へと旅立っていきました。
こちらの世界に残った人々は、変人とみなされるようになりました。

あの春の日、家族とともに旅立つことに決めたわたしに、
あなたは言いましたね、
永遠に生きるなんてまっぴらだ。
僕は命の営みを手放したくない、たとえそれが死の苦しみに
彩られているとしても、と。
あなたは頑なでした。

そしてわたしは今、この箱庭のような世界で永遠に生き続けています。
いつ、どこ、といった概念を失って、
人々は、生きることの意味も失ってしまったようにもみえます。
皮肉なものですね。どれだけ生きてもいいと言われて、
生きる意味を失ってしまうなんて。
最近では、長い長い眠りに旅立つ人が増えていると聞きました。
それはもはや死と何が違うのでしょう。
死から解放されたはずなのに、死を望む。人間はほんとうに
ままならない生き物ですね。

近頃ずっと、わたしは、あなたと別れた17歳の姿で、
ここで散り続ける桜を眺めています。もうどのくらいここに
いるのかもわからなくなりました。

あなた。今、あなたがいるところにも桜は咲きますか。
あなたが好きだった、中途半端な葉桜がありますか。
あなたのいる場所と、わたしがいる場所は、
似ているような気がします。
そう、すぐそばに、あなたを感じることがあるんですよ。
そんな瞬間が恋しくて、わたしはここで、散り続ける桜を
眺め続けています。いつまでも、いつまでも。

出演者情報:清水理沙 アクセント所属:http://aksent.co.jp/blog/


  

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田中真輝 2015年8月16日

1508tanaka

耳サラダ

       ストーリー 田中真輝(まさき)
          出演 遠藤守哉

みなさん、こんにちは。
耳で聞くサラダ、耳サラダの時間です。
今週もみなさんのお耳に、
フレッシュな素材の組み合わせが
奏でるハーモニーをお届け致します。

まずはそろそろ夏本番、この季節に
ふさわしい一皿をどうぞ。

プルシアンブルーシャングリラ
インディゴスリーパーパパラッチ
スカンジナビアンシークリーチャー

いかがでしょう。透明感の中にも
力強い陽射しの香ばしさを
感じて頂けたのではないでしょうか。

次は、和風の耳サラダ。
さっぱりとした瑞々しさから
濃厚でしっかりした味わいへの変化が
楽しめる一皿です。

過酸化水素水毘沙門天
伊藤一刀斎脱ダム宣言
環太平洋パートナシップ泥沼

いかがでしょう。
後味のかすかな苦みもまた格別、
といったところでしょうか。

最後は、通好みの熟成感と
弾けるようなスパイス。個性的な
耳サラダをお届けいたします。

墾田永年茶カテキン
ラーマーヤーナと棒状の鈍器
モホロビチッチ不連続面でじょんがら節ジョコビッチ

申し訳ございません。熟成素材の一部が
傷んで少々くどくなっていた可能性がございます。
ここにお詫び申し上げます。

さて、いかがでしたか、本日の耳サラダ。
時折思い出して口ずさんでみると、
その味わいが舌の先に蘇ってくる、
そんな楽しみ方もお試し頂ければ幸いです。
ちなみに私のお気に入りは、
伊藤一刀斎脱ダム宣言、でございます。
では、またの機会に。

出演者情報:遠藤守哉 青二プロダクション http://www.aoni.co.jp/

 

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