時速320kmのはらこ飯

『時速320kmのはらこ飯』

         ストーリー 細田佳宏
            出演 清水理沙

「いってきます」
買ったばかりのキャリーケースを持って車を降りた私に、
お母さんは「新幹線で食べらい」と言って
小さな紙袋を渡してくれた。

小走りに仙台駅の改札を抜け、
ホームに止まっていた緑色の新幹線に乗りこむと、
やがて短い発車メロディの後、
新幹線はゆっくりとホームを滑りだす。
乗客はまばらだ。お昼時で駅弁を広げている人もいる。

紙袋のことを思い出し、中に入っていた包みをほどくと、
すこし茶色がかったご飯の上にピンク色の鮭の切り身と
つやつやのいくらが見えた。

はらこ飯だった。

はらこ飯というのは、簡単に言えば鮭の親子丼だ。
鮭の煮汁で炊きあげたご飯の上に、
脂ののった鮭の身とたっぷりのいくら、
つまり、「はらこ」をのせた亘理町の郷土料理。
阿武隈川で鮭がとれる9月から12月頃にしか食べられない
この季節だけの味だ。

最近は有名になって
亘理のお店や駅弁でも食べられるけれど
本当は同じ亘理の中でも
家によって炊き方や味付けが少しずつ違う。
はらこ飯はお姑さんからお嫁さんに伝えられる家庭料理なので、
私が小さいころから食べてきた
このはらこ飯もウチだけの味だ。

すごい勢いで流れていく景色を眺めながら、はらこ飯を頬張る。
そのうちに新幹線はぐんぐん速度をあげ、
仙台の街を置き去りにしていく。
今年初めての、そしてきっと最後のはらこ飯。
東京ではどんなに上等の鮭といくらが手に入っても
このはらこ飯は食べられない。

参ったなあ。ちゃんと教えてもらっておけば良かった。

東北へ行こう。

亘理町観光協会http://www.datenawatari.jp/

亘理のはらこ飯http://www.town.watari.miyagi.jp/index.cfm/8,8292,54,html

駅弁100選はらこ飯http://select100.pdc-web.jp/ekiben2013/detail/12

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三つの春(三春)

「三つの春」

       ストーリー 細田佳宏
          出演 岩本幸子

春には三つ、あるのだそうです。

梅の花の咲く春。桃の花の咲く春。そして、桜の咲く春。

普通、春はそんなふうに一歩ずつ近づいてくるのだけれど、
この町には三つの春が同時にやってきます。
福島県三春町(みはるまち)。三つの春と書いて三春。

父は、桜の木を見上げている幼い私に、
この小さな城下町の名前の由来を、そう話してくれました。
今思えばどこまで本当なのかは知りませんが、
何て素敵な名前だろうと私はその時思ったのです。

この三春町には、その名を象徴するように
「三春滝桜」と呼ばれる大きな桜があります。
日本三大桜の中で最後に咲くその巨大な紅枝垂れ桜は、
樹齢千年以上といわれていて、高さは十三メートル。
幹回りは十一メートル。枝張りは二十八メートルもあり、
四方に広がった枝から花が咲く様子は、まるで紅色の滝が流れ落ちるようです。
その美しい花の姿を見るために、
室町時代の殿様は早馬を立てて開花の様子を日々待ちわびたといいます。

私が子どもの頃は、父に連れられて毎年、
馬ならぬ自動車に乗せられて花見渋滞の中、わざわざ滝桜を見に行ったものでした。
駐車場から少し歩いた小高い丘には、桜を間近で見ようと行列に並ぶ人、
お弁当を広げる人、屋台で買ったほうろく焼きをほおばる人。
たくさんの人、人、人。
写真好きな父は難しそうなカメラを構え、
滝桜をバックに私と母の写真ばかり撮っていました。
桜なんて何年経っても、いえこの滝桜はきっと何十年だって変わらないのに
何でわざわざ毎年写真を撮るのだろう、なんて私は思っていたのだけれど。

でも大人になった今、わかる気がします。

この頃はいろいろなことがあり過ぎて滝桜から足が遠のいていたのですが、
今年は、やっと歩けるようになった娘を連れてあの滝桜を見に行こうと思います。
運転係は父ほど写真が上手ではないけれど、父によく似た優しい旦那さんです。

お父さん、もうすぐこの町にも少し遅い春が来ます。
福島の春はこれからです。

福島県三春町:http://www.town.miharu.fukushima.jp/

滝桜:http://www.takizakura.com/

福島の旅:http://www.tif.ne.jp/


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白鳥(宮城県白石市)

『白鳥』

       ストーリー 細田佳宏
          出演 石橋けい

吐く息が真っ白に変わり、蔵王の山が雪化粧する頃。
今年も白鳥の鳴く声が、
白石(しろいし)の町の澄んだ空にこだまします。

通勤の途中、
厚手のコートとマフラーに身を包んで東白石(ひがししろいし)駅を通りかかると、
ホームの向こうを流れる白石川で
羽を休めるたくさんの白鳥たちを目にすることができます。
白鳥は朝には川から飛び立ち、近くの田んぼで餌を探し、
夕方にまた川へと戻ってきます。
白銀の雪景色の中を大きな羽根を広げて舞う白鳥の姿は
いつもながら目を見張る美しさです。
この白鳥たちは、シベリアからやってくるのだそうです。
シベリアなんて私には想像もつかないけれど、
夏に生まれた子供の白鳥も
親と一緒に3000kmの距離を渡ってきます。

誰かの受け売りですが、
東北の、特に宮城には白鳥(しらとり)神社という名前の神社も多く、
白鳥は神の使いとしてとても大切にされていたそうです。
冬になるとやってきて、またどこかへ去っていく真っ白な鳥を、
昔の人はどんな思いで眺めていたのでしょうか。

そう言えば、このあいだ町の図書館で、
白鳥についてこんなお話を読みました。

昔々、ヤマトタケルノミコトという英雄がいました。
タケルは蝦夷征伐の時にこの地にしばらく住まい、
長者の娘と恋に落ちました。
二人の間には男の子が生まれましたが、
タケルは命令で都へと帰ってしまいます。
姫はタケルが戻ってくるのを待ちながら
遠い都のタケルを思い慕い、
ついに白鳥になって都に飛んで行こうと、
皇子とともに川に身を投げ、白鳥になり飛び去った。
そんなお話です。

なんだか救いがない話みたいですが、
東北には「めでたしめでたし」で終わる昔話は少ないのだそうです。
白鳥になった姫は都でタケルに再会し幸せに暮らしました、
なんて結末を期待するほど私ももう無邪気な女の子ではありません。

私は白鳥になって飛んでいきたいなんて思わないし、
きっとこの先も生まれたこの土地を離れることはないでしょう。
それが不幸だとも思わないけれど、
でも白鳥になりたかった姫の気持ちも少しわかる気がします。

あなたは今、どこで何をしていますか。
同じ空の下にいますか。どうかお元気で。

今年も東北に白鳥が来ました。

みやぎまるごと探訪http://www.miyagi-kankou.or.jp/

みやぎ観光NAVIhttp://www.pref.miyagi.jp/kankou/

白鳥の飛来地 in 宮城http://watarubuu.at-ninja.jp/003Aabc.htm


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リンゴと彼女と

「リンゴと彼女と」 

        ストーリー 細田佳宏
           出演 小川弦

次の駅までの話になりますが、いいですか?

僕がはじめて彼女を見たのは
社会学原論というちょっと退屈な授業でした。
彼女は緊張しているのかきゅっと固く口を結んで、
大講堂の隅でひとり、講義を聞いていました。
雪のような白い肌と、リンゴみたいな赤いほっぺたの女の子でした。

うちの大学には青森というか東北出身の子はたぶん彼女しかいなくて、
おっとりしている上に、
訛りを気にして聞き役に回ることの多い彼女は、
機関銃みたいに喋る関西の女の子しか知らなかった僕にとって、
はじめてつきあうタイプでした。

僕の冗談を一生懸命頷きながら聞く彼女はいわゆる「ボケ殺し」で、
僕がそう言うと彼女はきょとんとしていたんですが、
意味がわかると顔を赤くして、
しばらくは口を固く結んでむくれていました。
「じょっぱり」って言うんでしょうか、
そういうところは意地っ張りな子でした。

夏が終わる頃、実家からたくさんのリンゴが届くと、
彼女は重いりんごを抱えて僕のアパートに来てくれました。

切れない包丁で器用にリンゴをむく彼女に地元のことを聞くと、
五能線というリンゴ畑の中を走る列車のことを話してくれました。
その列車の窓からは、春には花盛りのりんご畑の向こうに
まだ雪を残した岩木山が見え、
秋にはたわわに赤い実をつけたりんごの木が
手の届きそうな距離に枝をさしのべていて
そして、そのリンゴ畑に囲まれた小さな無人駅のそばに
彼女の家があるのだそうです。

そうして就活の時期になって、
僕がようやく彼女と将来のことを考えだした頃、
彼女は青森で就職すると言い出しました。
「東北のために、私も何かしたい」って。
僕は彼女の固く結んだ口を見ると何も言えませんでした。

僕はそのまま関西で就職して、
仕事の忙しさもあって、連絡もしなくなり、
このまま疎遠になっていくのかなって思っていた頃、荷物が届きました。

箱を開けるといい匂いがしました。
真っ赤なりんごがぎっしり入っていました。

箱に貼ってある送り状を見ると
見慣れた字で僕のアパートの住所と、
はじめて見る青森の住所が書いてありました。

はい、その林崎という駅のそばです。
きっと真っ赤なリンゴに囲まれているその駅が、僕が降りる駅です。

僕は、東北へ来ました。

青森案内名人http://www.atca.info/

青森アプティネットhttp://www.aptinet.jp/index.html

青森facebook:http://www.facebook.com/aomorikanko

青森りんごhttp://www.aomori-ringo.or.jp/

五能線リゾートしらかみの旅http://www.jreast.co.jp/akita/gonosen/


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