大友美有紀 2018年7月1日

「角を曲がって」

    ストーリー 大友美有紀
       出演 地曳豪

ひまわりが咲いている角を曲がって
3軒目が私のうちだから

と彼女は言った

川沿いの道は日ざしが強くて
道の両側にひまわりが咲いていた
これでは「ひまわりが咲いている角」
だらけじゃないか
不安を抱えながら僕は時速30キロで車を走らせた
後続車がクラクションを鳴らす
夏の日ざしのせいだけではない汗をかきながら
ふと左側に目をやると
「ひまわりが咲いている角」が見つかった
いくつも並ぶ、似たような建て売り住宅の
白い板壁を背景にして
絵はがきのようにひまわりが咲いていた

彼女は3軒目の家の前で待っていた
ひまわり咲いていたでしょと言う
僕は咲いてたねと答えた

それからその日は、ダムに行った
観光放流があるから、と
車じゃないと行きにくい場所だから、と
彼女が言ったので、初めてのドライブデートに出かけた

ダムは溜め込んでいた鬱屈を吐き出すように
水を放った
水しぶきを浴びて、彼女はキャーキャーと笑った
ああ、この人はこんなふうに笑うんだな
僕は、僕たちの新しいページが開いたように感じていた

秋になると、彼女も僕も仕事が忙しくなり
残業帰りにちょっとお酒を飲むぐらいで
遠出のデートは結局、ダム行きの1回だけだった
週に2回会っていたのが
週に1回になり、2週間に1回になり
あぁ、もうひと月も彼女に会ってないな
と思った頃、知らない番号から着信があった
彼女の友だちからだった
3日前から出社していないという
3日前のメールに出張に行くと書いてあったので
そう伝える

出張なんてないですよ
彼女、経理だもん

僕には営業職だと言っていた
それに、彼女の友だちという人とも初めて話した
僕の番号は、彼女から聞いていたらしい

いま、どこにいるの、と送ったメールは
宛先不明で戻ってきた

とにかく、彼女の家に行ってみる
ひまわりは、もう咲いていない
ナビに登録していた家までの道を車で走る

似たような建て売りの
小さな可愛らしい家たちが並んでいる
どの角を曲がるのかわからない
目的周辺に到着したので
ナビの案内は終了してしまった

川沿いの道の角をひとつひとつ曲がって
3軒目の家の表札を見る
表札のない家もある
表札のある家には彼女の苗字がない
そんなことを繰り返して
夜があける頃、彼女はもうどこにも
いないんじゃないかと思えてきた

彼女の友だちに
家にはいなかったと連絡した
もしかしたら
家はなかったと言ってしまったかもしれない

それでも僕は、時間ができると
「ひまわりが咲いている角」を探しに行った
何度も角を曲がり
3軒目の家の前で車を止めた
彼女の家は見つからなかった

3回目に警察に職務質問された時、
彼女の名前を伝え、家を探していると
言ってみたけれど、そんな家はないと断言された

その夜のことだった
「ダムに連れて行ってくれてありがとう」と書かれた
ひまわり畑の絵はがきが届いた

僕は今、アムステルダムの空港で
マドリード行きの飛行機を待っている
成田で見たテレビには
僕のよく知っている彼女の顔が
僕の知らない女の名前で報じられていた

スペインの「ひまわりが咲いている角」を曲がって
彼女に会いたい



出演者情報:地曵豪 http://www.gojibiki.jp/profile.html

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また行きたくなるGAMAROCK

また行きたくなるGAMAROCK。

      ストーリー 大友美友紀
         出演 池田成志

GAMAROCKが開催される塩竈みなと公園は、
芝生の公園。そのど真ん中に、ステージ。

2013年9月22日、日曜日、
地元の小学生バンドも、大友康平も、
坂本美雨もおおはた雄一も、
クラムボンも、小林武史もsalyuも、
細見武士も、Dragon AshのATSUSHIも、
みんな同じステージにあがりました。
サブステージもあります。金子マリが歌っていました。

牛タン、笹かまぼこ、海鮮焼き、
などなどなどが屋台で売っています。
おいしそうな匂いがします。
他にも、子どもたちが遊べる場所や、
アートの体験コーナーやNO MUSIC , NO LIFEの
ポスターを作ってもらえるコーナーもあります。
秋祭りのような、ロックフェスティバルです。

できれば前日、仙台か塩竈に泊まって、牛タンやお寿司を楽しんで、
できれば当日の夜も泊まって、次の日松島や浦戸諸島を観光しましょう。

昨年は、サザンオールスターズの宮城スタジアムコンサートと
重なってしまって、仙台周辺のホテルがなかなかとれませんでした。
開催日が決まったら、早めに宿をとることをお薦めします。

主催者の平間至さんは、10年は続けたいと言っています。
わたしは、きっと、ずっと行きます。
みなさんもどうぞ。

開催が決まったら、サイトでお知らせするそうです。
http://gamarock.net/

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GAMAROCKへの行きかた

GAMAROCKへの行き方。

     ストーリー 大友美友紀
        出演 宮下今日子

GAMAROCKへは、
まず、仙台から、せんせき線に乗ります。
仙台と石巻をつなぐ路線です。
よく「せんごくせん」と読み間違えられます。
仙石線は、新幹線のホームからは、ちょっと遠いので、
時間に余裕を持って移動してください。
各駅停車で12駅目、本塩釜で降ります。
駅前から、GAMAROCKの会場のみなと公園へ、
シャトルバスが出ています。
徒歩だったら15〜20分ぐらい。
お天気がよければ塩竈の街を見ながら、
歩いていくのもよいでしょう。

会場に近づくと、近所の小学生たちが描いた、
GAMAROCKのフラッグが見えてきます。
ワクワクしてきます。

さて、入場です。
芝生の公園のど真ん中にステージがあります。
周りには食べ物や飲み物の屋台が取り囲んでいます。
チケットは、仙台の地酒と笹かまぼこ付きなので、
まずレジャーシートを敷いて自分の場所を確保したら、
お酒をもらいにいきます。
浦霞、阿部勘、一の蔵から選べます。
わたしは、阿部勘にしました。
オープニングの挨拶を聞きながら、
もう笹かまで、一杯やります。

GAMAROCKはミュージックとアートとフードを通して、
塩竈の魅力を伝え、塩竈を元気にするイベントです。

サイトもご覧ください。
http://gamarock.net/2014/

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秋は GAMAROCK

秋はGAMAROCK。

     ストーリー 大友美友紀
        出演 大川泰樹

ガマは、塩竈のガマです。
塩竈は、宮城県にあります。
仙台から電車で30分ほどの港町です。
人口に対するお寿司屋さんの数が
日本でいちばん多いんだそうです。
笹かまぼこなど、ねりものでも有名です。

その塩竈で開催される野外フェスが、
GAMAROCKです。

ミュージックとアートとフードを通して、
たくさんの人に塩竈の魅力を伝えて、
塩竈を元気にするイベントです。
2012年と2013年に開催されました。

主催者は、写真家の平間至さん。
平間さんは、塩竈の写真館の息子さんなんです。
タワーレコードのNO MUSIC , NO LIFEの写真を
撮っている人、といったらおわかりになるでしょうか。
それと平間さんの思いに賛同した
Dragon AshのATSUSHIさん。
出演者は、宮城、塩竈にゆかりある人と、
やはり、その思いに賛同した人たち。

ことしも、秋に開催するそうです。

夏のほとぼりが覚めた頃、東北で開催されるフェス。
いい感じです。

GAMAROCKのサイトもぜひご覧ください。
http://gamarock.net/ 

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大友美有紀 2012年6月4日

「そのバーのジントニックは格別」

           ストーリー 大友美有紀
              出演 遠藤守哉

え、オレの仕事ですか?
うーん、まー、探し物をするっていうか。
探偵?そんなところですかねー。
ところで、マスター。
ここのジントニック、キリッとしてるんだけど、
奥が深い感じで、おいしいですね。
え、ジンを2種類使っているんですか?
マスターのオリジナルレシピ?
あ、マスターの師匠のレシピなんだ。
オレ、ジントニック好きなんですけど、
こんなの飲んだことないですよ。

ジンをトニックウオーターで割り、
レモンかライムを搾る。
それだけでカクテルになる。
シンプルだからこそ、
作り手によって個性が生まれる。

今日、オレは、このバーに仕事をしに来た。
マスターにあるものを渡さなくてはいけない。

思いというものは、波動でできていて、あまりに強いと、
思っていた本人がいなくなっても、その場で漂っている。
世間では「念」とか呼ばれているけれど、
そんなにおどろおどろしいものではない。
「ぽわぽわ」とそこにある感じだ。

その「ぽわぽわ」を見つけて、アンテナを立てる。
それがおれの仕事だ。
その思いがどんなものか、とか、
誰のものだ、とかは考えない。
考えないようにしている。
ひとたび考えると、思いがどっとオレの身に流れ込んで、
ふくらんで満たされてしまって、オレの輪郭がなくなってしまう。
オレが消えてしまう。

アンテナを立てて、それでオレの仕事は終わり。
ではない。

「ぽわぽわ」はアンテナが立つと、
ひとすじの淡い光となって発信される。
オレは、その光をたどる。
ずうっとたどっていくと、
思いを届けるべき相手に到着する。
そこに受信アンテナをつける。
ここで大事なのは、つけることを相手に
知られてはいけない、ということ。

アンテナは、オレたちにしか見えない。
気づかれても説明することができない。
アンテナをつけるチャンスを失ってしまう。

でも、今回は受信する相手がいて、よかった。
この思いは、あの破壊された地から来た。
オレたちは、あの地に数えきれないほどの発信アンテナを立てた。
でも受信先が見つかったのは、その半分にも満たない。
行き先のない思いをどうするのか、どうしたらいいのか。
オレたちは考え続けている。

ジントニックを、もう1杯。

オレは、おかわりを頼み、
マスターが氷を取り出そうとうつむいたスキに
アンテナをつけた。

マスターが顔を上げる。
一瞬、何かを探すような表情になった。

受信したんだ。
ほっとした。

2杯目のジントニックは1杯目より、
2種類のジンのバランスがさらに絶妙で、
格別な味わいだった。
何故、味が変わったのか。
オレは考えないようにした。
まだ消えたくない。
このカクテルを最後まで味わいたい。

出演者情報:遠藤守哉 青二プロダクション http://www.aoni.co.jp/

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