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藤本宗将くんがfacebookにこんなことを書いていました。
もののあはれをおぼえたので
記事ごと切り取って掲載しますね。
ちなみに詳細は御嵩町のfacebookに掲載されています。
https://www.facebook.com/mitaketown

mitake

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藤本宗将 2013年6月29日

殺生石異聞

         ストーリー 藤本宗将
            出演 地曵豪

下野国那須郡の寒村に、源翁(げんのう)という名の僧がいた。
法力に優れ修行のために諸国を巡っていたが、
ここ一年ばかりはこの地にとどまっていたのだった。

春も終わりに近づいたある日、
いつものように山で修行に励んでいた源翁は
異様な光景を目にして思わず立ちすくんだ。
こんな山奥には不似合いの若い女が、
山ツツジの繁みにもたれるように座っていたのである。
肌は透き通るように白く、髪は日差しを浴びてきらきらと金色に輝いている。
そしてその顔立ちは、この世のものとは思えぬほど美しかった。
さらにただごとでないのは、女が矢傷を負っていたことだった。
衣は血に染まり、ツツジの花よりも鮮やかな赤が
妖艶さをいっそう際立たせている。

邪気こそ感じなかったが、ただならぬ気配に源翁も言葉が出ない。
これは、いったい何者か。いぶかしんでいると、
女はまるで心が読めるかのように口をひらいた。

「そのむかし唐の国におりましたころ、私は皇帝の妃でございました」

突拍子もない言葉に源翁は大いに混乱したが、
女は取り乱しているのでもなければ、騙そうとしているようでもない。
黙ってこの女の身の上話を聞くことにした。

「皇帝は私を寵愛しましたが、たいそうひどい暴君でした。
狩りで鳥や獣を殺し、豪奢な宮殿のために樹を伐り、戦で野原を焼きました。
食べるためではなく、快楽のために多くのいのちを奪う。
私にはそれがどうしても許せませんでした。
だから皇帝を操り、人間同士で殺し合うよう仕向け、国を傾かせてやったのです。

そのつぎは天竺、さらには海を渡りこの国へ来ましたが、
どこへ行っても人間は自らのことしか考えぬ
恐ろしい生きものでございました。
都では宮中に入り、院のおそばに仕えながら
人の世を滅ぼす機会を伺っておりましたが、
阿倍なにがしという陰陽師にわが正体を見破られてしまい、
命を狙われてここまで逃げてきたというわけです」

そう語り終えたとき、女はいつの間にか狐の姿に変わっていた。
金色の毛並み。九つに割れた尾。
それがさきごろ都を騒がせたという
白面金毛九尾の狐(はくめんこんもうきゅうびのきつね)であると、
ようやく源翁は理解した。

「私はただ、生きものたちの暮らす場所を守りたかった。
けれど、その願いはもはや果たせそうにありません。
国じゅうの山も野原も、いずれ人間どもの戦で荒れ果てるのでしょう。
ただ、せめてここに咲く美しいツツジは、人に踏みにじらせたくないものです」

そう言うと狐はよろよろと立ち上がり、
源翁を残して山を下りていった。
そして麓近くで力尽きた狐は、巨大な石へと姿を変えた。

石からは毒気をはらんだ煙がもうもうと立ち上り、
あたりには草木も生えなくなった。
気味悪がった村人たちは石を捨てようとしたが
煙を吸った者はばたばたと倒れてしまう。
いつしか石は「殺生石(せっしょうせき)」と呼ばれ、
山には誰も近寄らなくなった。

ただひとり源翁だけは近くに小さな庵をむすび、狐の魂を弔った。
狐と人と、どちらがひどい殺生をしたのか。
ずっと考えてみたが、とうとうわからなかった。

出演者情報:地曵豪 http://www.gojibiki.jp/

 

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藤本宗将 2012年5月13日

「運命の青い糸」

         ストーリー 藤本宗将
            出演 大川泰樹

迷う余地なんてない…はずだった。
おれとしては、青いほうを選ぶことに何のためらいもない。
好きな色といえば子供の頃から青だった。

ヒーローものでも、主役扱いの熱血レッドより
いつもクールなブルーのほうがかっこいいと思っていた。
大人になってもそういうところは案外変わらないもんだ。

もう5年乗っている愛車も青。エーゲブルーという名前の青だ。
だからエーゲ海を見たことはなくても、その海の色は知っている。

ネクタイやシャツも、いちばん多く持っているのは青だ。
人から似合わないと言われたこともないし、
おれと青の相性はそんなに悪くない、と思う。

それから通勤のときだって、
同じタイミングで山手線と京浜東北線がやってきたら
なんとなく青い京浜東北線のほうに乗る。
まあ、先に緑の電車が来たらそっちに乗るけど。

とにかく、青にするつもりだったのだ。

もうひとつだけ付け加えるなら、
今朝のテレビ番組で、能天気な声の女子アナが、
牡羊座のラッキーカラーは青だと言ってたし。
べつに占いの類いは信じちゃいないが、
もともと好きな色なんだから従ってもいいだろう?
そうだ、青でいいはずだ。
あいつも、さっきからずっと青にしろと言っている。
念のため、もういちどだけ確認しよう。

「いま、青って言ったよな?」

その問いかけに、無線の向こうの同僚は
少しうわずった声でさっきと同じ内容を繰り返した。
気持ちを落ち着かせながら、指示を頭の中で復唱する。

「起爆装置のカバーをはずして、
 基盤の中央にあるソケットから出ている
 2本のコードのうち、青いほうを切れ」

やっぱり、青を切ればいいんだよな。
あいつはうちの爆発物処理班の中じゃ優秀なやつだが、
ちょっと落ち着きがないのがいただけない。
そう、せかすなよ。余計に焦るじゃないか。
こういうときこそ冷静でいなきゃいけないんだよ、この仕事は。

さて。青いコードを切る。
やるべきことはきわめてシンプルだ。
おれはプロとして、仕事を淡々とこなすだけ。
いつもと同じように、ニッパーでコードを切ればいい。パチン!それで終了。
デスクに戻ってきょうの報告書を書き終えたら、京浜東北線で家に帰るんだ。
コンビニに寄って、缶ビールを買おう。それと晩メシも。

特別なことはなにもない。はずだったのに。なぜだ。なぜなんだ。

なんで2本とも青いコードなんだよ。

ひとつ訂正する。おれは、青が嫌いだ。大嫌いだ。

出演者情報:大川泰樹 http://yasuki.seesaa.net/  03-3478-3780 MMP

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藤本宗将 2011年11月20日

リセット

         ストーリー 藤本宗将
            出演 大川泰樹

気がつくと5人は後ろ手に縛り上げられ、
膝をついて座らされていた。
暗いために彼らの表情までは読み取れないが、
長く伸びた頭髪はひどく乱れており
激しく抵抗したことを示していた。
しかし今はみな声を発することもできず、
ただ恨めしそうに襲撃者たちを見上げている。
自分たちがなにをしたというのだ。
深くくぼんだ眼窩の奥で、眼がそう訴えていた。
森の中から眩しい光とともに
突如現れた異形の集団は
見たこともない銀色の服を身にまとい、
見たこともない武器を肩からさげていた。
どうやって捕えられたのか、まさに一瞬の出来事だった。
「悪く思わないでくれ。
君たちに罪はないが仕方ないんだ」
銀色の連中のうち、
リーダー格とおぼしき1人がそう話しかけた。
しかしあくまでもその口調は、
相手との会話を望んでいるようには思えない
きわめて一方的なものだった。
判決理由を言い渡す裁判官のように、男は淡々と続ける。
「それのせいさ」
男は傍らの焚火のほうに視線を向けた。
表情は冷ややかなままだが、
瞳に映ったオレンジ色の炎がぎらりと光った。
「君たちが火を手に入れたことで、
人類は文明を飛躍的に発達させた。
しかしそれは人類自身を狂わせもした。
われわれとしては、
破滅を回避する必要があったんだ。
そのために、この時代へと送り込まれたんだよ。
もういちど進化をやり直せば、
違う道を歩むことができるかもしれないからね」
いったいなんなのだ?こいつはなにを言っている?
5人に理解することはできなかったが、
動物的本能が身の危険を告げていた。
縛られたまま必死で叫んだものの、
それは言葉にならない。
やがて5発の銃声がひびきわたると、
森はふたたび深い闇と静寂に包まれた。
そのままにされた焚火の残り火が、
あたりを弱々しく照らしていた。
1929 年に北京市房山区
ぼうさんく
周口店
しゅうこうてん
で発掘された
約78 万年前の人類は、考古学者によって
「ホモ・エレクトス・ペキネンシス」と名付けられ、
その周辺からは、ほぼ完全な頭蓋骨5個と
彼らが火を利用していたことを示す跡が発見された。
しかしその化石骨のすべては、
第二次世界大戦の混乱の中で忽然と消えてしまう。
まるで、もとより存在しなかったかのように。

出演者情報:大川泰樹 http://yasuki.seesaa.net/  03-3478-3780 MMP

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