「陸前高田・祖父の寄付」篇
祖父が「寄付をする」と言い出した。
出張のおおい仕事をしていたが、
土産など一度も買って帰ったことがなかった、
いたって倹約家の祖父がである。
「もったいない」が口癖で、
魚は骨までバリバリ食べる。
そんな祖父が、寄付?
家族みんなが驚いた。
寄付先は、桜ライン311プロジェクト。
岩手県の陸前高田市で、
津波の到達地点に桜の木を植えて、
震災を未来に伝えようという取り組み。
律儀に切り抜かれた新聞記事を前に、
家族は全員、おなじ言葉を飲み込んだ。
「で、いくら寄付するの?」
元来、無口な祖父である。
無口なうえに頑固なので、
いちど決めたことは決して曲げない。
ようやく父が、口を開いた。
「お父さん。寄付は素晴らしいことですが、
なんでまた、縁もゆかりもない東北に?」
しばし虚空をにらんで、祖父はポツリと言った。
「昔、仕事で、一度だけ陸前高田に行ったことがある」
若き日の祖父が、大きな旅行カバンを抱えて、
ちいさな駅に降り立つ姿を、私は思い浮かべた。
のどかな港町の向こう、しずかな春の海が輝いている。
浜風に桜が舞う。
16才で志願兵として戦争へゆき、
18才で戦争が終わり故郷へ帰り、
農機具を売り歩く仕事についた祖父が、
東北のその港町をなぜ訪れ、
いったいどんな思い出をつくったのか。
無口な祖父は、何も語らない。
よし。次の春は、祖父を連れて。
―――東北へ行こう。
陸前高田観光物産協会:http://www.3riku.jp/kanko/
陸前高田未来商店街:http://ameblo.jp/mirai-shotengai/