先生の電話番号
1月。地元に帰省をして中学時代の友人に会う。
社会人10年目になる。
今でも中学時代の先生の電話番号を覚えている。
そう言うと記憶力を驚かれる。
でも、それには訳がある。
毎日電話かけていたんです。
というか毎朝かけていたんです。
そして、どこからでもかけていました。
自分の家から。親戚の家から。友達の家から。
ときには公衆電話から。
仮にその先生をS先生とします。
S先生は僕のクラスの担任であり、
僕の所属していたサッカー部の顧問であり、
地域の選抜チームの監督でした。
いつも僕の行く場所に必ずS先生がいました。
でもなにをそんなに毎日電話する用件があるのか。
遅刻の電話です。
僕はお腹が弱くて、
よく壊していました。
でも毎日お腹壊したと電話をしていると先生が電話の向こうで
本当は寝坊じゃないのか?と疑っているのを感じます。
自分で言うのもなんですが、
僕はとても寝坊しそうな顔をしています。
眠たそうな顔が理由で怒られたこともあります。
疑われるのもわかります。
だからそんなことをする必要もないのに
「寝坊しました。すみません。遅刻します」
と先生のイメージ通りの自分を演じて電話したりもしました。
そして、
毎日お腹壊してばかりだと学習がないと思われるのではと、
そこから色々な理由をつくる日々が始まりました。
ボーッとしていました。遅刻します。
キシリトールガムの食べ過ぎでお腹を壊しました。遅刻します。
鼻血が止まりません。遅刻します。
37度。微熱です。遅刻します。
雪で家のドアが開きません。遅刻します。
妹に教科書をビリビリに破かれました。遅刻します。
吉野家の牛丼についていた七味が目に入って目が開きません。遅刻します。
理由がなくなってきたら外の公衆電話からもかけました。
木曜日は燃えるゴミの日でカラスに襲われました。遅刻します。
野生のキジに威嚇されていました。遅刻します。
どこかの家から脱走したパグに追いかけられていました。遅刻します。
キツネに追いかけられていました。遅刻します。
様々な理由で遅刻の電話をしていました。
理由を考える時間のせいで遅刻した日もありました。
この遅刻の理由を考える日々が
今の企画を考える仕事につながっている気もする。
そして、お腹が弱いことを正直に打ち明けていたら良かったなとも思う。
先生の電話番号を思い出すたび、
あの日々がよみがえりいつも初心にかえる。
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出演者情報:地曵豪 http://www.gojibiki.jp/profile.html
録音:字引康太