『誕生日』
ストーリー 三井明子
出演 西尾まり
初めて降りる駅。
駅を南側に少し歩くと、古いビルが並ぶ一角。
その中のひとつのビルの一室を探しあてた。
古びた応接セットの置かれた地味な部屋だった。
お香の匂いも、水晶玉もない。
そこには、ただ1人、おばあさんがいた。
私は、緊張して、沈黙が怖くて、自分から話し始めてしまう。
同僚の評判を聞いて来たんです、良く当たるって…
今日は、男性との出会いを占って欲しくて…
そこまで話すと、おばあさんが私に話しかけてきた。
「お名前は?」
サトウ サヤカです。
「生年月日は?」
1980年10月30日です。
そして、その2点だけを確認すると、
ゆっくりと頷き、
私の顔をじっくりと見つめ、
深く息を吸った後にこう話しはじめた。
「この部屋を出て、駅に向かう途中に2つ信号があります。
1つ目の信号待ちで、あなたの右側に1人の男性が現れるはずです。
その男性があなたの運命の人でしょう。思い切って声をかけてみてください」
あ、あの、もしも、右側に男性が現れなかったら?
「きっと現れます。
万が一現れなかったら、現れるまで待っていればいいのです、その場所で」
そこまで自信たっぷりに断言されると、信じるしかない、のかもしれない…
でも、本当かしら…
そんなことを考えながら駅へ向かう。
緊張感が高まる。
1つ目の信号が見えてきた。
私が着くと同時に信号は赤になった。
そして…、
なんと、右側に男性がやってきた!
顔は良く見えない。
どんな人かわからない。
でも、声をかけるしかない。
顔を見ると、意外と好みのタイプ。
好きな音楽が一緒、職場が近所、自宅も同じ方向…
さえない喫茶店で2時間も話しこみ、
店を出るときには、次に会う約束をしていた。
「本当によかったね!披露宴の受付とスピーチは任せてね」
占いを紹介してくれた同僚たちが、ちょっと悔しそうに祝福してくれた。
そう、あれから自然に交際がはじまり、とんとん拍子に話が進み、
あの日、あのとき、あの信号の前で出会った男性、
タカシと結婚することになっていた。
披露宴を目前に準備で慌ただしくしていた週末、
手続きや相談もあって、実家に帰った。
ねえお母さん、実はね。
タカシさんとの出会いはね、誕生日が関係しているの…
「ふうん。あ、そういえば、今まで言ってなかったけど、
サヤカの誕生日、ほんとうは別の日だったのよ…
でもね、田舎のお爺さんがね、キリがいいって、
変えて届けをだしちゃってね…」
え?え?そうなの?
私の誕生日は別の日なの?
じゃ、あのおばあさんは何を占っていたの?
じゃあ、タカシさんは運命の人じゃない…、の…?