テーマがない
ストーリー 福里真一
出演 遠藤守哉
この東京コピーライターズストリートは、
毎月、決められたテーマのもとで、書かれている。
たとえば、昨年1月のテーマは、
「はじまり」。
何人かのコピーライターが、
それぞれに「はじまり」というテーマを解釈して、
それぞれの文章を書いた。
私もまた、そのテーマのもとに、
たしか、人類のはじまりが、
地球にとっての災厄のはじまりだった、
というような内容の文章を書いた気がする。
ところが、
今年の1月に関しては、テーマなし、
という連絡がきた。
テーマがない。
よーし、自由だ!思うぞんぶん、書きたいこと書いてやるぞ!
という感じには、
私の場合はならなかった。
テーマがないと、
何について書けばいいのかわからない。
そこで当然頭に浮かぶのは、
自分でテーマを設定する、という考えだ。
たとえば、とりあえず1月だから、
お正月
というテーマで書いてみよう。
実際、お正月には、
いくつかの、よかったり悪かったりする思い出がないわけでもないので、
少し書きはじめてもみたのだ。
あるお正月に、
数年前に亡くなった祖父から突然年賀状が届いた話とか、
けっこうそれなりにおもしろく書けそうでもあったのだ。
しかし、どうなんだろう。
せっかくいつもの月とは違う、
テーマなし、
というときに、
自分でテーマを決めて書く、というのは、
なんというか、
テーマなし、
ということから逃げていることにはならないのだろうか。
テーマなし、というテーマに、
ちゃんとこたえていることにならないのではないだろうか。
そこで、
テーマもなく、ただやみくもに書いてみる、
ということも、
少しだけやりかけた。
サッカーの試合は長すぎる。
45分ハーフではなく、30分ハーフぐらいにした方が、
プレイする側も見る側も、
緊張感をもって試合に臨める気がする。
それと、オフサイドとかいうルールは、
判定も難しそうなので、
やめてしまった方がいいと思う。
そう、それを書いているときが、
ちょうどサッカーワールドカップが盛り上がっているときだったので、
心に浮かんだことをそのまま書いたら、
ただのサッカーの感想になってしまった。
テーマもない、感想の羅列を、
このコピーライターズストリートに書くのも、
どこか違う気がする。
…そんなプロセスを経て、
いま、こうして、
テーマがない、ということについて書くという、
ひねっているようでいて、
一番ベタともいえる地点に立って、
書いているわけだ。
私は、広告をつくることを仕事にしている。
広告には必ずテーマがある。
商品のおいしさを伝えたい、とか、
企業の先進性を伝えたい、とか、
はっきりしたテーマがあり、
それに沿って企画をすればいい。
あまりにもその仕事に慣れてしまったが故に、
どうやらいつしか、
テーマがないと、
たじろいでしまうような体質に、
なってしまっていたらしい…。
まあ、とにかく、2023年がはじまった。
テーマがない、ということに苦手意識があるわりには、
「人生のテーマ」とか、
「今年のテーマ」とかを設定したことは、
いままでほとんど、なかった気がする。
生きることにおいては、
テーマもなく、ただズルズルと生きてこれたのは、
なぜなのだろうか。
むしろ、人生にテーマを持つことへの、
嫌悪感すらある気がする。
しかし、
このコピーライターズストリートで、
新年早々、
テーマについて考えたのも、
何かの縁だ。
今年ははじめて、
「今年のテーマ」というものを
自分でしっかり定めて、生きてみようか。
いや、やっぱりやめておこう。(おわり)
出演者情報:遠藤守哉(フリー)