ストーリー

山本高史 2006年11月



二日酔いで考えたアホな話     

                      
ストーリー 山本高史
出演 山本高史

あのねよくあるでしょう、
クルマの横っ腹に会社や店の名前を、
左右とも進行方向から書いてあるクルマ。
例えばホワイトクリーニングゆう名前やったら、
反対側は、つまり運転席側ですけどね、グンニーリクトイワホってなってる。
わけわからへんやん!左から書かなあかんやん!
なんでなんでしょうね、クルマを前に進ませるぞーーっちゅう意欲か?
なんちゅうか、ああいう左右対称って、飛行機の翼感覚??
まあそれはいいんですけど、このあいだ街歩いてたら、
なんの会社か知らんけど森田(株)、森に田んぼの田ね、で後株、
そうゆうバンが停まってて反対側見たら、やっぱり翼感覚。マッハ2。
つまり(株)田森。
そういうたらタレントのタモリももともとそういうことやんか、
本名森田や!と思い出して、
なんとなくそれからなんでもひっくり返してみるクセがついたんですよ。

例えばですよー、基本からね、まず。
カレーライス。ライスカレー。
まあ変化なしですね、ライスカレーのほうが若干昭和かなあゆう感じくらいで。
でつぎ、カレーパン。パンカレー。
これはえらい違いや。具がパンやもん。
ビーフカレー、ポークカレー、パンカレー。
ぼくはいりません。
そんで、オムライス。ライスオム。
メンズの、ライスやね。大盛り、ゆうことかいな、わけわからへん。
ついでに、アメリカのライス長官は、長官ライス。
ごはんの上になにのってんねん!?カツか?テロに勝つ、ゆうて。
それに濃いめのソース。胸焼けるくらいのやつ。
アイスコーヒー。コーヒーアイス。
飲むもんが食べるもんになりました。
味の素。素の味。真逆やがな。味の素、自己否定。
少年ジャンプ。ジャンプ少年。
跳ねるんでしょうねー、近所で評判立つくらい。
あー、ジャンプ少年やったら角のお寿司屋さんのボクですよ、みたいな。
クロマグロ。マグロクロ。音的にまっくろけ。まっくろくろ。
シャンプー&リンス。リンス&シャンプー。
おねーさん、逆!逆!順番まちがえてますよー。
そんで、おとめ座。ザ・おとめ。誰やねん?ざ・おとめ。
かわいいんやったら紹介して!
しかも正しくはジ、やし。じ・おとめ、やし。
予防注射。注射予防。
せんせー、よしだくん注射してませんよー。
めっちゃディフェンスしてますよー。
砂時計。時計砂。ちっちゃ!3時も4時もわからへん。
掛け時計。時計掛け。もう時計ですらありません。
フックや。壁の上のほうについてる。くるんと巻いたやつ。

あほなこと考えすぎたなーおもしろいやんかこれ、
それはそうとして、いまなん時や?
時計砂はあかんで、こういうときは腕時計。
・・・腕時計。時計腕。
わーこれいやや、針はえてるんですよ、2本、ないし3本、
体洗うとき触ってしまってなん時かわからへんようになって
焦りそうな気がするし、だいいち防水かどうかわからへんし、
わーふっとい毛ぇはえてるとか絶対言われるし、
いややほんまいやです時計腕。

VOICE:山本高史 (株)コトバ

*「二日酔いで考えたアホな話」は放送局の判断で放送中止になり
 番組ブログのみで紹介しています。

Tagged: ,   |  コメントを書く ページトップへ

小野田隆雄 2006年11月17日



春に見た夢
         
ストーリー 小野田隆雄
出演 坂本美雨

 
二階のガラス窓に青い空が映っていました。
たたみの上に横になると、フリージアの香
りがしました。白いフリージアが竹製の花び
んにいけられ、柱につるされていました。眼
をとじていると、たたみのひんやりした感触
がここちよく、中学一年生になったばかりの
私は、いつのまにかねむってしまいました。

 長い戦争が終った夏の終り、郵便屋さんが
兄の戦死を知らせる手紙を持ってきました。
「いま頃になって。もう戦争は終ったのに」
と、母が言いました。
「兄さん、かわいそう」
 と、姉が言いました。
 姉は、時間のかかる、治りにくい病気にか
かっていて、寝たり起きたりの日々をすごし
ていました。
「山に行こうか」
 と、姉が私に言いました。
 それは家の裏にある、山というよりも、だ
んだん畑の続く低い丘でした。だんだん畑の
みかんの茂みの間を登って行きますと、頂上
はやや広い草原になっています。
 そこに腰をおろして南を見ると、ずっと遠
くに海が見えるのでした。
「あの海は太平洋よ。兄さんはあの海のもっ
と南で死んだのよ」
 と、姉が言いました。
「海に行ってみたいな」
 私はつぶやきました。兄の死は、幼い私に
とって無関心なことだったのです。
「もっと大きくなったら行くといいわ。あの
道をバスに乗って」
 見おろすと、八月の稲田が湖の底のように
深い緑色に広がり、その間を白い道がひと筋、
くねくねと海に向って続いていました。
 海の、岬のあるあたりに、細く白く、腕時
計の針のように、燈台が見えていました。

「海に行ってみたいわ」
 その少女が言いました。
 姉ではなくて、見知らぬ少女が私の隣にい
ました。長いまつ毛をした少女でした。
 コチコチ、コチコチ。私は私の心臓の音が
時を刻むのを聞きました。時間がゆっくり過
ぎますように・・・・・
 けれど、少女は、突然にうつむいて苦しそ
うにせきこみました。背中をさすってあげよ
うと、私が手をのばしたとき、甘い薬品の香
りがしました。
 少女は立ちあがり、走り始めました。口も
とを手で押えて。そして、白いワンピースの
後姿が、蝶が舞うように、みかん畑の中に消
えました。

 眼をあけると、二階のガラス窓に黒い雲が
映っていました。湿った風が吹き始め、フリ
ージアの香りが、優しい麻薬のように部屋を
つつんでいました。

出演者情報:坂本美雨http://www.miuskmt.com/

 *ナレーターの所属事務所のご都合で
  音声をお聴かせすることができません。

Tagged: , ,   |  コメントを書く ページトップへ

一倉宏 2006年11月10日



1時を過ぎてもう1軒      

                  
ストーリー 一倉宏
出演 マギー

「女は、別れた男の数だけ腕時計を持っている」
 そういう説がある。
 この卓抜な警句をつくったのは、ぼくのともだちだ。

「女はね、別れた男の数だけ腕時計を持ってる」
あの夜、失恋したともだちが繰り返し言うので、
そのたびに納得してやった。

もうそうとう酔ってるな。
傷が深いのは、わかるけど。

「ある日突然、見たことない時計をしてきた彼女に、
 切り出されたわけですよ。
 突然よ! それでさ、わかる? 
 その時計をちらちらっとさ、気にしながら
 じゃ、私行くから、ごめんね。
 だって。つくしょーっ。

 おれがプレゼントした時計がいちばんのお気に入りって。
 いつもいつもその時計をしていたのにねーっ。
 みごとだよ。おみごとっ。」

こういう夜だから。
女性全般をワルモノと言うのもしかたない。
「そうだそうだ、女はそうよ」と相槌を打ちながら、
テーブルの下の携帯で、
「かなり荒れてます。遅くなります」
のメールも打ったりしてた。

ともだちが失恋して、なぐさめるなら、
その夜は、腕時計を見るべきではない。
僕もまた、もう何杯目かのウイスキーを飲みながら、
「だからさ。いい女はいっぱいいるよ。
見返してやれ。おいっ」と言った。

僕も彼女に時計を贈ったことはある。
そんなに高いのじゃないけど。
僕が彼女に時計を贈られたことはない。
なぜなら、
つまり僕は時計が好きで、
欲しかったのはもちろん機械式で、
かなり値の張るものだから。

「いいんだよ。
僕の時計は自分で買うから、お金貯めて」と言ってた。
去年のクリスマスの、数日前のことだった。
売り場で見て来たらしくて
「ほんとに高いんだね」と、泣きだしそうな顔で言った。

うん。
その泣きべそだけで、
僕はもう、おなかいっぱいに、じゅうぶんだから。

*出演者情報 マギー  03-5423-5904 シスカンパニー所属

音楽:ツネオムービープロジェクトhttp://tsuneo.cart.fc2.com/

Tagged: , ,   |  コメントを書く ページトップへ

山本高史 2006年10月27日



コーヒーのような別れかた
                     

ストーリー 山本高史
出演 ぼくもとさきこ

「コーヒーのような別れかた」という言葉が英語にある。
米語ではない、英語のほうに、だ。
意味は、それまでのどちらかというと楽しかった出来事も
なかったことにしてしまうような別れかた、転じて、台なしにする、
さらには日本語でいう、後ろ足で砂をかけるのニュアンスすらあるらしい。
文字どうり後味の悪いコーヒーへの中傷である。
もちろんそれは前提として、
英国がコーヒーに非常にネガティブな社会だからなのだが、
たとえばこんな小話がある。

「フランス人っていうやつはほんとうにバカだね。
美食だ大胆だ繊細だと口角泡をとばすくせに、
そのおしまいにあんな苦いものを口に入れたら、
ハト食ったのかネズミ食ったのか忘れちまうだろうに」
そして、その点我が聡明な国民は紅茶を飲む、と続けるところが英国人らしい。
もっともこれを引用してフランス人が
「ならばオマエたちこそコーヒーを飲むべきじゃないのかね」
つまりあんなまずいものを忘れるためにと切り返すくだりがあるのだが、
コーヒーの弁護にはなっていない。

このやりとりが「コーヒーのような別れかた」を如実に表すものならば、
なるほどヤツは一杯のニヒリズムかも知れぬ。
事実、英国人には珍しいコーヒー愛好家のミック・ジャガーは
このニヒリズムをむしろ好意的に認識していたらしく、
メロディーメイカー誌のインタヴューにおいて、
政治腐敗のテーマでこの語句を用いている。
彼が,Paint it Brack を書き上げたのはちょうどその頃だ。
だとさ。

中学生の私にそんな作り話を真顔でする叔父は、
その3日後放浪先のタイで食あたりで亡くなった。
近親者は私への最後の話を知りたがったが、教えなかった。
ただ、コーヒーでも飲めばよかったのにと、死者に意地悪なことを考えた。
But,coffee didn’t Paint it Brack.

*出演者情報  ぼくもとさきこ

Tagged: , ,   |  コメントを書く ページトップへ

児島令子 2006年10月20日



『彼女の出張』
                      

ストーリー 児島令子
出演    大川泰樹

もしもあなたが、
大阪から東京に向かう新幹線の中で、
ペンとノートを手に、
考え事をしている女性を見かけたら、それは彼女かもしれない。

彼女の職業は、女芸人。
最近急にブレイクし、大阪から東京に呼ばれることが多い。
彼女は、それを「出張」と呼ぶ。

彼女は、東京23区内でギャラを稼ぎ、
大阪西税務署で納税している。
東京都知事よりは、大阪府知事に愛されそうな生き方。

彼女は、東京までの2時間半、
出張先で披露するネタを考える。
「こんな感じでいいんじゃないの」
ってやつなら、もうできている。
「これでなくちゃいけないの」
ってやつが、まだでていない。。。。

彼女はまったく、天才なんかじゃない。
だから、考える。

もしもあなたが新幹線の中、
名古屋を過ぎたあたりで、
座席でメイクを直している女性を見かけたら、彼女かもしれない。

電車の中でメイクをするのは、ルール違反。
でも、新幹線の中は例外。隣が空席の場合はもっと例外。
それが、彼女のルールブック。
自分を自分なりにきれいにしておくことと、
いいネタを持参することは、
居心地のいい出張のための条件。

それに、もはや、おかしな顔で面白いより、
美しくて面白い方が、面白い時代なのですよと。

メイクをチェックして、ふたたび、仕事に集中。

もしもあなたが、東京駅に着くまぎわに、
コーヒータイムしている女性を見かけたら、彼女かもしれない。

「お熱くなってますのでお気をつけください」
差し出された車内販売のコーヒーを、彼女は味わう。
いま、ノートに書き込んだばかりの新ネタを見つめながら。

新幹線は必ず行き先に着く。だから彼女は救われる。
東京駅という締め切りに向かって2時間半、
彼女のネタ作りの旅は、コーヒーで締めくくられる。

ダークブラウンの液体とともに彼女が飲み込むのは、
あるときは、小さな達成感。「やったね、これだ」
あるときは、少しの敗北感。「こんなもんかな」

だけど、いずれにせよ、締め切りがあってよかったのだ。

人生は、
さまざまな時間のユニットでできていて、
それぞれに終わりがあるから、
ささやかな何かを成し遂げることができる。

コーヒーを飲み干したとき、
彼女の手からノートが通路にすべりおちた。開いたままの状態で。
見開きいっぱいに、へんなコトバや文章が並んでいる。

まわりの乗客の視線を感じたとき、
彼女はもうひとつ、ネタを思いついた。

「今日、新幹線でネタ考えてたら、コピーライターとまちがわれたんですよ~」

彼女は東京23区内へ消えていった。

*出演者情報:大川泰樹 http://yasuki.seesaa.net/ 03-3478-3780 MMP

Tagged: , ,   |  コメントを書く ページトップへ

小野田隆雄 2006年10月13日



コーヒー色の思い出

         
ストーリー 小野田隆雄
出演 坂本美雨

まだ風は冷たいけれど、木に咲く花は、少し
ほころび始めていました。
今日、小さな結婚式が小さな街でありました。
昨日までの雨があがって、二階建ての市民会
館は、なんとなくオランダふうに見えるので
した。彼と彼女が、いま、笑いにつつまれて
結婚式場から出てきました。
「しあわせになれよ」
「ケンカしちゃだめよ」
友だちの声に、花嫁は顔をあからめ、花むこ
は元気に手を振り、ふたりは黒ぬりのハイヤ
ーに乗り込みました。これから駅へ、駅から
港へ、港から船に乗って南のしまへ。
眼を閉じて車にゆられながら、花嫁の心に幼
い日の思い出が、浮かんできました。

あの日も雨があがったあとの、花冷えのする
日でした。
「桜が散っているわ」
ちょうど両親が家を留守にして、彼女がひと
り病気の姉の枕元に座っているとき、姉がぽ
つりとそう言いました。
「でも、家には桜の木なんてないわ」
「なくても散っているの、見えるの」
天井を見つめながら、姉が言いました。
新しく張り替えられたばかりの、真白な障子
は閉めきられていました。障子戸の外は廊下、
廊下のガラス戸に春の風が当たって、誰かが
ノックするような音をたてていました。正午
に近い時刻でした。
「コーヒーを飲みたいな、もういちど。あの
ひとと」
姉はそう言うと眼を閉じました。涙がひとす
じ白い頬を伝わって、形の良い唇の所で止ま
りました。
「姉さん」
彼女は姉をのぞき込むようにして、呼んでみ
ました。返事はありませんでした。

花嫁が瞳をあけると、車は海沿いの道を走っ
ていました。海も青く、空も青く澄んでいま
した。
「姉さん、わたし幸福になるからね」
花嫁は、そっとつぶやいてみました。花むこ
は、彼は、花嫁の手を握ったまま、くったく
なく眠っていました。

出演者情報:坂本美雨http://www.miuskmt.com/

 *出演者の所属事務所の許諾が得られないために
  動画をお目にかけることができません。

Tagged: , ,   |  コメントを書く ページトップへ