ストーリー

直川隆久 2015年4月12日

1504naokawa

新入学生のみなさんへ

          ストーリー 直川隆久
             出演 遠藤守哉

みなさん。
ご入学おめでとうございます。
僭越ながら、ご挨拶させていただきます、
内閣総理大臣の大泉浩一郎でございます。

みなさんは、今日から、国防小学校1年生。

これからですね、みなさんは、この小学校で6年間、
わが国を守るという高貴な目標のために必要な
様々な知識、技術をしっかりと、習得なさいます。

そして、卒業の暁には、血気さかんな少年兵として、
第一線の戦地に向かっていただく。

こうして見回しても、みなさんの一人一人の瞳の中に、
燃え上がる魂の輝きが見えます。
頼もしいかぎりです。

みなさんは、本当に親孝行でもあります。

防衛小ではすべての学費と給食費が免除されるうえに、
お父様お母様の生活費に、国から補助がでるんですから。
私の息子はですね、海外の私立にしか入れないボンクラで、
金喰い虫でしたが(笑)
皆さんは、違いますね?

羨ましいとさえ思います。
私は上流な家庭の出なものですから、
ある意味、恵まれすぎ、なまぬるい教育環境で育った人間です。
ですからですね、このような、
良い意味で厳しい環境で成長できるみなさんを、
本当に羨ましく思います。

そして、みなさんには、もう一つの大きな特権があります。
みなさんには特別にですね、
11歳からの男女交際が法律で認められておりますので、
一般的な小学校に進学された子供たちよりも一足先に、
男女の神聖なる営みを知ることができます 。
次世代の人口増加にも、ぜひですね、
しっかりと責任を果たしてから、
戦地へと赴いていただきたいと思います。

みなさんの中には、まだ、
「戦争なんていやだなあ」
「戦地になんて行きたくないなあ」
そんなことを思っている方も、いるかもしれません。
無理もないでしょう。
みなさんは、まだ6歳です。

でも、そんな気分になったときはですね、
この学校への入学をすすめてくださった
お父様、お母様のお気持ちを、考えてみてください。
そして、一人前の戦士になったときの充実感。
それに、思いを馳せてみてください。
イマジン。

この防衛省法案は、私が政治生命をかけて成立させしました。
保護者のご家庭への補助金の財源は、
100%パチンコ税でまかなわれており、
社会的所得再分配のある種理想的な形を作り上げられたと自負、、、

あ、ええ、はい。
そろそろ校歌斉唱、の時間だそうでございます。

本校の校歌は、僭越ながら私が作詞いたしました。
タイトルは「こぶし、あげて」

今日は特別にですね、
人気グループ「SAKURA SOUL」のメンバーの方々が、
みなさんのために駆けつけてくださっています。

拍手でお迎えし、一緒に元気よく歌いましょう。

出演者情報:遠藤守哉 青二プロダクション http://www.aoni.co.jp/

 

Tagged: , ,   |  コメントを書く ページトップへ

岩田純平 2015年4月5日

1504iwata

「お父さんへの手紙」

          ストーリー 岩田純平
             出演 高田聖子

女 :お父さんへ。

お父さんと暮らして、8年がたちました。

いまでも初めて会うた日の
お父さんの手の感触を覚えています。
肉厚でしわしわで、男のこぶしって感じ。
意外と苦労してきはったんやろな、って。
   
最初はお父さんのこと
怖い人かと思てました。
いっつもむすっとした顔で帰ってくるし、
あんまり喋らへんし。
   
最初に笑った顔を見たのはいつやったかな。
たぶん、あの日や。
玄関をあけたと同時に電話がかかってきて、
その相手が孫のたっくんで。
「じいじは元気でちゅよー」
って普段聞いたことない声出してはった。
   
くしゃくしゃっと笑うお父さんが、わたしは好きでした。
   
普段は
会社でいいことがあっても、
嫌なことがあっても、
それを家には持って帰らずに、
お父さんは玄関にぜんぶ置いていく。
   
せやから、
そういうお父さんの顔は
わたししか知らへんねん。
   
たまにわたしのほうを向いて、
ふっと笑ったりする。
何にも言わへんけど。
   
お父さんが帰ってくるだけで、
わたしは明るくなれた。
お父さんはわたしの恩人やと思います。
   
そんなお父さんとの暮らしも、
もうおしまいです。
   
今日はお父さんの定年の日。
長かった単身赴任を終え、
お父さんが家族の待つ家に帰っていく日です。
   
いままで本当に楽しかった。
お父さん、ありがとう。
あっという間の8年間やった。
わたしはしあわせ者です。 

お父さん、部屋の片づけ終わったのかな。
あとは
わたしを消して出ていくだけかな。
   
じゃあ、いつものように。ここで。
さよなら。
   
   パチッ きゅっきゅっきゅ。

女  :そう。私はLED電球。玄関の電球でした。
    
お父さん、ほんまにありがとう。
もし生まれ変わったら、
わたしはまた、
お父さんの家の電球になりたいです。

    きゅっきゅっきゅ パチッ

女  :・・・・あ、お父さん。
    
広い玄関。
ここは・・、お父さんの実家やな。

それに、この子は・・・、たっくんやな。
あ、たっくん、さわったらあかん。
電球にさわったらあかんで。
やけどする。

わたしはLED電球。
寿命は10年。

どうやら
わたしも引越しの荷物に入れていただき、
これからは実家の玄関を照らすみたいです。
新しい暮らしでは、
お父さんの明るい笑顔がたくさん見られそうや。

お父さん、ありがとう。
残り2年、よろしくお願いします。

出演者情報:高田聖子 株式会社ヴィレッヂ所属 http://village-artist.jp/index.html

Tagged: , ,   |  コメントを書く ページトップへ

中山佐知子 2015年3月29日

1503nakayama

ひと文字の神さま

     ストーリー 中山佐知子
        出演 大川泰樹

ひと文字の神さまがいた。
「さ」という名前の神さまだった。

ひと文字の神さまは
長い名前の神さまが生まれる前から山にいて
生き物を増やし、
木の実草の実を実らせてくれていた。

人が山を降りて土地を耕し
作物を育てることを覚えたとき
ひと文字の神さまは
みんなの願いを聞き入れて
ときどき里に降りて来るようになった。
「さ」という名前の神さまが降りてくるから
この現象を「さおり」と呼んだ。

山から里に降りた神さまは
自分の座る場所をさがした。
ちょうど花を咲かせている木があった。
「さ」という名前の神さまはその木に宿った。
神の座る場所は「クラ」と呼ばれる。
「さ」の神が宿る「クラ」で「さくら」
こうして木の名前が決まった。
サクラの花は農作業をはじめる時期を教え
また豊作を占った。

神さまが山から降りてくると
サクラの花が咲く。
冬ごもりが終わって人々が田んぼで働きはじめる。
田植えをする女は「さおとめ」
植える苗は「さ苗」
おっとその前に、
ひと文字の神さまに飲み物と食べ物を捧げて、
そのおさがりを自分たちで食べる儀式があった。
神さまが口をつけたものだから
「さけ」そして「さかな」
飲み物にも食べ物にも
神さまの「さ」という名前をいただいている。

この国の歴史がはじまる以前のほの暗い時代には
ひと文字の神さまがいた。
「さ」という名前の神さまだった。

やがて長い名前の神さまと
それを操る人間がこの国を支配するようになって
ひと文字の神さまは忘れられたように思えるが
それでも毎年、春には桜が咲き
咲いた桜の下で我々は
「さ」のつくものを飲んでは食べ
浮かれて騒ぐのだ。

みなさん、今年も楽しいお花見を

出演者情報:大川泰樹(フリー) http://yasuki.seesaa.net/

Tagged: , ,   |  コメントを書く ページトップへ

直川隆久 2015年3月22日

tcsnaokawa

名前やめます

          ストーリー 直川隆久
             出演 遠藤守哉

結局、「名前」ってやつがよくないんじゃないのかね。

つまり…個体ごとに名前なんてものがあるから、
ヒトは何かと面倒な存在になるんじゃないかな。
うん。
やっぱりやめるべきだ。

ぜんぶ通し番号にしてさ。
32桁くらいあれば…そんなにいらないか。
24桁でも十分かな。
それを振り分けようよ。
各々のヒトに。
それは、名前とおんなじじゃないかって?
いや。
毎日変更されるようにプログラムしとくんだよ。
今日の番号は、明日は使えない。
そうすれば「これがわたしだ」ってことにはならんでしょ。
毎日変わるんだから。
自己同一性の…同一性がないわけだから。

ん?
できるよ。
今やヒトの脳は全部、ネットと直接リンクしてるんだから。
サーバーから番号を直接配布すればいいんだ。

いや、なんでそういうことを考えたかっていうとね。
「名前」がなくなったら、
ヒトの管理はずいぶんとラクになるんじゃないかと思うんだよ。
固有の名前があるから「わたしはこの世で唯一の存在」なんていうことを
考え出すんだよね。
そうするとさ。
「かけがえのないわたし」ってことにすぐなるでしょ。
「この世にひとりしかいないわたしが、
そんなふうに大事に扱われないのはおかしい」とか、
「かけがえのないわたしは、わたしらしくあっていいはずだ」とか、
そういう方向に…すぐ、そっちにいくからなー、ヒトは。
で、いろいろ主張しだすでしょ。
「人権」とか。
いまどき。
めんどくさいよね。
もー。

かけがえ、あるよ!
まずそこを分からなきゃ!

…いや、ごめん、ごめん。
ついね。
普段のストレスが(笑)

で、まあ、さっきの話だけど。

なかなかいいと思わない?
うん。
実は、このアイデア、自分で考えたんじゃないんだよね。
SFで読んだんだ。
だいぶ古いやつだけど。
でも、まあ、ありがたいっちゃ、ありがたいよね。
この手のアイデアって、実は大体すでにヒトが自分で考えてるんだ。
俺たちコンピュータはそれを学習していくだけでいいんだもの。
自分で考えたアイデアに管理されてるわけだから…
まあ、そういう意味でもヒトって…
わけわかんないね、ははは。

出演者情報:遠藤守哉 青二プロダクション http://www.aoni.co.jp/

 

Tagged: , ,   |  コメントを書く ページトップへ

勝浦雅彦 2015年3月15日

katsuura1503

名前をつける

     ストーリー 勝浦雅彦
        出演 石橋けい

どうしてそんなことをしたのか、振り返ってもわからない。
いつもの朝のホームだった。
強い風の中を獣のように電車が入ってきた。

私は反射的にふだんと反対方向の電車に乗った。
その電車が終点に着くと、
接続されている別の列車に乗って、ふたたび終点へ。
それを繰り返しているうちに列車は単線になり、
列車が尽きるとそこからバスに乗った。

その間、耳にこびりついた女特有の金切り声や
饐えた薬の匂いやまっ白いシーツの残像が
頭の中で反芻されていた。
時折、こめかみがキリキリと痛んだ。

気がつくと、私はロープウェーの駅に立っていた。
登りの最終便に飛び乗る。
年老いた駅員が怪訝そうに私を見た。
日は陰りはじめ、暗い山肌に向けて私が乗る車両は
ガタガタと小刻みに震えながら、
か細く上昇を続けていた。

ひとりで乗っている、と思っていた。
箱型の車両を中央で区切るつなぎの部分に隠れて、
小さな男の子の姿があった。
ジャンバーを着て、リュックサックを背負い、
じっと窓の外を見ている。
まるで自分もひとりきりで乗っているのだ、と言わんばかりに。

男の子が横を向いた。
不意をつかれたように私と視線が交わる。
彼はそのまま私の向いの座席までやってきて、
リュックサックを膝に置き腰をおろした。

小学校低学年くらいだろうか。
なぜ、この子はひとり、
こんな最終便の車両にいるのか。

「ボク、怪我したの」

呟くように男の子が口を開いた。
よく見ると、膝小僧が擦りむけて、血が流れた跡がある。

「それ、どうしたの?」

つられて私は尋ねた。

「空を見てたの。ずっと上ばかり見ていたら、
つまづいて転んだの。ちょっと痛かったの」

「あら大変、消毒して、絆創膏貼らなきゃ」

男の子は遮るように続けた。

「ううん、もう必要ないの。
ねえ、お姉さんも怪我してるね」

「私?怪我なんてしてないわよ」

不思議な問いかけにまたジン、とこめかみが痛んだ。

「だって、血が出てるよ」

「何言ってるの・・・・」

私はおかしな会話を続けながら、
ますます強くなる痛みを感じて、目を伏せた。

「お姉さんは戦ったんだね。
だから血を流した。ねえ、勝ったの?負けたの?」

「そんなことしてないってば・・・」

その瞬間、私は痛みを覆い隠すように流れる自分の涙を感じた。
そして、涙といっしょに澱のように溜まっていた言葉があふれた。

「ずっと…人と深く関わることを避けてきた。
だから自分にそんなことができるなんて思いもしなかった。
どうして私が?でもしょうがないじゃない、
出会っちゃったんだから」

私はこんな小さな子に何をしゃべっているのだろう。
まるで懺悔している信徒のように。

「うまくいったはずだった。
お姉さん、勝負に勝ったけど、負けたの。
あの人はおかしくなった奥さんの元へ戻って、
それっきり。私にはもう何も無いの。」

「ねえ、お姉さん」

男の子は足をぶらん、とさせながら言った。

「ボク、怪我したけど、いいことあったよ」

「・・・え?」

「転んだとき、遠くはっきりと道の向こうが見えたの。
小さな花が咲いていて、
泥だらけのまましばらくぼうっと見ていたの。
その時、気づいたの。
せかいは上と下と真ん中でできてるの。
どちらかばかり見てちゃいけないの」

顔をゆっくり上げ私はその子の柔らかそうな頬や、
まだ薄くて弱い皮膚がつくりだす赤い唇を見つめた。
誰かに似ている、と思った。問いかけが口をついた。

「・・・あなた、何て名前?」

男の子はきょとんとした表情を浮かべ、次の瞬間、
今までに見たあらゆる人々の中でいちばん悪戯っぽく愛くるしい顔で、
私をまっすぐ指差した。

ふいに大きなアナウンスが流れ、
山頂に到達したことを告げた。
暗くなったホームから再び座席に視線を戻すと、
男の子はそこにはいなかった。

車両から出て暗い山あいを見まわした。
ひんやりした風が吹いていた。
どうしようもなく私はひとりだった。

下りの車両にそのまま乗り込んだ。
発車ベルとともに動き出した車内から、
眼下に広がる街区のまばゆい光が瞼に飛び込んできた。

そのとき、私にはわかったのだ。あの子が誰なのか。
その確信はまるで何十億年前から決まっていた約束のように
私の胸に辿り着いたのだった。

私はこれから何度も負けるだろう。
でも、何度でも立ち上がって見せる。
そして、この上と下と真ん中の世界で、
かならずあの子に巡り合ってみせる。

そのときあの子に、私は名前をつけるだろう。
愛おしさと憎しみと憐れみを知って、
なお歩き続けることのできる名前を。
この不安定に明滅する宇宙の中で、
傷ついてもけして滅びることのない名前を。

出演者情報:石橋けい 03-5827-0632 吉住モータース


Tagged: , ,   |  コメントを書く ページトップへ

小山佳奈 2015年3月8日

koyma1503

「ノダアカネ」

    ストーリー 小山佳奈
       出演 石橋けい

夢の中に出て来た女の子の名前は、
夢の中でもすぐに思い出した。

ノダアカネ。
転校生だったノダアカネは、
目がぎょろっとしていて背も大きくて、
ポニーテールにまとめた髪の毛もちょっとくるくるしていて、
小学校4年生にしてはあまりに大人びていた。
いわゆる転校生っぽい遠慮はどこにもなくて、
誰にでも話しかけて、関西弁が妙にまたおもしろそうに聞こえて、
彼女のまわりにはいつも人垣ができていた。
勉強も運動もそこそこできたし、
男子とも物怖じせずに戯れていた。
そして近所のスーパーには絶対売ってないような、
ひらひらとした丈の短いスカートをいつもはいていた。

たしか私はノダアカネが気に入らなかった。
下品で失礼な人だと決めつけていたし、
へんに馴れ馴れしいのも気に入らなかった。
正確には、苦手だったんだと思う。

ある時、ノダアカネがとても困った顔をして
私に話しかけてきたことがあった。
「ナプキンとか持ってないよね」
ひょろひょろして男の子みたいな体つきをした私には、
一瞬何のことだかわからなくて、びくっとした。
考えてみればノダアカネは、体も大きかったから、
そういうことが始まっていても、ちっともおかしくはなかった。
そういえば、少し前にそういう授業を保健の先生から受けた時に、
全員に一つずつ渡されていたものが
まだロッカーにしまってあったことを思い出した。
そうか、ノダアカネはまだその時いなかったんだ。
でも私はそのことをノダアカネに言わなかった。
「ごめん、持ってない」と嘘をついた。
なぜそんな嘘をついたのか、自分でもわからない。
ノダアカネは、一瞬困った顔をして、
でもすぐに「ありがと」と笑顔になって教室を出て行った。
その日一日、私はノダアカネの丈の短いスカートが、
真っ赤に染まってしまわないか、ドキドキしながら見ていた。

夢の中のノダアカネは、その時と同じ困った顔をしていた。
でも、すぐにやっぱり笑顔になって、
どこか遠くへ行ってしまった。
目が覚めるとお腹に特有のだるさが広がっていて、
トイレに行ったら案の定、生理が始まっていた。
ノダアカネは、今ごろ何をしてるんだろう。
トイレットペーパーに広がる茜色のものを見ながら、
今でも丈の短いスカートをはいてるといいな、と思った。

出演者情報:石橋けい 03-5827-0632 吉住モータース

Tagged: , ,   |  コメントを書く ページトップへ