八木田杏子 09年5月23日放送
スコット・フィッツジェラルド
ヘミングウェイに比べたら、
自分はテクニックを心得ただけの
文学的娼婦にすぎない。
スコット・フィッツジェラルドは、
生涯、そのコンプレックスにつきまとわれていた。
妻の浮気を放っておいてまで、
執筆にのめりこんだ「グレート・ギャッツビー」。
フィッツジェラルドの死後、
それは文学史に残る傑作となり、
ヘミングウェイよりも高く評価された。
死ぬまでぬぐえなかったコンプレックスは、
そもそも存在しないものだった。
ガリレオ・ガリレイ
世の中をひっくりかえすような真実は、
こっそりと伝えなくてはならない。
ガリレオは、身をもってそれを知っていた。
それでも地球は動いている。
その言葉を、回りくどく、ときには誤魔化しながら、伝えた。
ふたたび裁判にかけられたとき、彼はあっさり地動説を捨てる。
死刑をまぬがれた彼は、74歳まで執筆と発明をつづけた。
小さなプライドを捨てられる人だけが、
大きな真実を追究できる。
ジョン・F・ケネディ
不況が続くと、人は足元ばかり見るようになる。
ちょっとでも躓きそうになると、立ち止まるようになる。
うつむいている国民にむかって、
ケネディ大統領は、ある発表をした。
10年以内に、月に人類を送り、月の石を持ち帰る。
誰もが、思わず、顔を上げた。
見慣れたはずの月なのに、石ころまで輝いて見えた。
1969年7月20日。
月面、静かの海に人類は降り立つ。
ケネディの話が現実になったとき、
もう、うつむいている人はいなかった。
たとえ足元の石につまずいても。
月の石を目指していたから、前に進んで行けたのだ。