石橋涼子 09年8月22日放送
泣く女-ドラ・マール
その人は、とてもよく泣く女の人だった。
ドラ・マール。
写真家であり、画家であり、ピカソの恋人。
「愛してる」と笑っては泣き、「浮気者」と責めては泣く。
彼女はいつだって、全力で泣いた。
どんな言葉よりもまっすぐで、激しくて、正直な、
彼女の涙はとても魅力的。
ピカソも一度だけ、彼女に涙を見せた。
人生はあまりにもひどい、
という以外に説明ができない
と、言いながら。
男の人の涙って、
理屈っぽくって、うすっぺらで、ダメね。
彼女の名は-樋口一葉
樋口一葉の人生は、貧困との戦いだった。
「一葉」というペンネームは
達磨大師が一枚の葉っぱに乗って川を下る
故事からとった。
達磨さんも、わたしも、
おあしが無いから。
おあしは足、そしてお金。
足のないダルマさんとお金のない自分を
しゃれで笑い飛ばす強さがここにある。
一葉は原稿料をもらうために小説家になったが
お金のための小説、というものは書かなかった。
江戸前のいい女だったに違いない。