あの人の食 向田邦子
向田邦子は、
ドラマ「寺内貫太郎一家」で
ささやかだけれど
確かなぬくもりのある
昭和の家族の生活を描いた。
朝食のシーンのト書きには、
毎回献立が書かれていた。
アジの干物に大根おろし、
豆腐と茗荷の味噌汁、
などなど
ある日、向田はメニューの最後にこう書いた。
ゆうべのカレーの残り
そこには、ドラマのワンシーンではなく、
昨日も今日も、明日も続く、
寺内家の生活が確かに描かれていた。
あの人の食 ロッシーニ
食いしん坊という存在は、
なんだか愛らしい。
食い意地が張っている、
というのとはちょっと違う。
「食べる」という行為を
心から愛し、無邪気に楽しんでいるから
ではないだろうか。
ロッシーニは本物の食いしん坊だった。
オペラ作曲家として人気も実力も絶頂の37歳で
「食」に専念する、という理由で
引退してしまったのだから。
大好きな料理を楽しむためにレストランをつくり、
大好きなトリュフを探すために豚を育て、
大好きなワインを楽しむためにレシピを考えた。
彼の音楽的才能を惜しんだワーグナーが熱心に説得しても
ロッシーニはラム肉の焼き加減を気にしてばかり。
そんな彼が心から涙を流したのは、生涯で二回だけだという。
一度目は、パガニーニの演奏を聴いたとき。
二度目は、トリュフがたっぷり詰まった七面鳥を
落としてしまったとき。
食に向かうとき、その人がどんな人間かがよく見える。
あの人の食 トーマス・エジソン
発明家トーマス・エジソンといえば、
電球を発明したこと。
よりも、
発電から送電までの
電気事業を整備したこと。
が、評価されている。
そんな天才エジソンがある日言い出した。
一日二食では健康に良くない。
一日三食にするべきだ。
こうして、アメリカ国民は健康のために
朝食を食べるようになった。
エジソンが発明したトースターで焼いた
こんがりキツネ色のトーストを。
モノをつくるだけでは売れないことを
彼は知っていた。
同時にマーケットもつくらないと。
エジソンは、本当の発明家だった。