蛭田瑞穂 10年09月19日放送
宇宙のはなし①「ムーンイリュージョン」
ビルや山の合間にあらわれた月が、
いつもより大きく見えたことはありませんか?
地平線の近くにある月が、
真上にある月より大きく見えるこの現象。
名前を「ムーンイリュージョン」という。
なぜ大きく見えるのか。
アリストテレス、プトレマイオス、デカルト、ガウス、
古代から名だたる賢人たちがこの不思議の解明を試みた。
目の錯覚、光の屈折、心理作用。
さまざまな説があるけれど、
こんな幻想的な謎は、できれば謎のままにしておきたい。
宇宙のはなし②「レイリー卿」
空はどうして青いの?
そんな質問をされたら、あなたはなんて答えますか?
空の青さ。
それは光の性質に関係がある。
太陽の光は地球に届くと、大気中の塵にぶつかって反射をする。
あらゆる色が存在する光の中でも、青色の光は波長が長く、
さまざまな角度に反射して拡散する。
そのため、空一面が青く見えるのだという。
この原理を発見したのは
イギリスの物理学者ジョン・ウィリアム・ストラット。
男爵だった彼は、「レイリー卿」の通称で呼ばれていたため、
この光の作用も「レイリー散乱」と名づけられた。
空が青い理由。
それは、つまり、こういうわけなのです。
宇宙のはなし③「川口淳一郎」
2003年に打ち上げられた惑星探査機「はやぶさ」。
そのミッションは地球から3億キロ離れた
小惑星イトカワに着陸し、表面のサンプルを持ち帰ること。
そのサンプルには46億年前、
太陽系誕生の秘密を解く鍵が隠されているという。
月以外の惑星からサンプルを持ち帰る、人類初の壮大な試み。
それだけに度重なる危機がはやぶさを襲った。
姿勢制御装置の故障、通信機能の不能、イオンエンジンの停止。
しかし、その度にはやぶさは危機を乗り越え、
ついに2010年6月13日、再びその姿を地球にあらわす。
最後の大仕事は、サンプルを入れたカプセルの切り離し。
それに無事成功すると、はやぶさはそのまま大気圏に突入。
花火のように燃え尽きた。
はやぶさプロジェクトのマネージャー、川口淳一郎はこう語る。
絶望的な危機を何度となく乗り越え、
カプセルを地球に送り返す大役を成し遂げたあとで、
みずからは日本国民の心に残る“不死鳥”になったのです。
宇宙のはなし④「ジョージ・ガモフ」
宇宙のはじまりは超高密度で、超高温の小さな火の玉だった。
1946年にアメリカの物理学者
ジョージ・ガモフが提唱した「ビッグバン理論」。
だが当時の科学者の多くはその説に否定的だった。
「ドカンという爆発から宇宙が生まれたとでもいうのかね?」。
「ビッグバン」という名前もそんな皮肉からつけられた。
しかし現在、ビッグバン理論は
宇宙の起源に関するもっとも有力な説。
コペルニクスの昔から、
常識を覆す発見はなかなか理解されないらしい。
宇宙のはなし⑤「オルバースとハッブル」
どうして夜空は暗いのだろうか。
太陽が出ていないから?
どうやら話はそう簡単ではないようだ。
19世紀の天文学者ハインリヒ・オルバースは
こんな疑問を投げかけた。
もし宇宙が無限であり、無限の星が存在するなら、
無限の星の輝きで夜空は明るくなるはずだ。
これを「オルバースのパラドクス」という。
あきらかな矛盾とわかりながらも、
誰も矛盾を解決できなかった。
このパラドクスに答えが出たのは、
20世紀になり、天文学者エドウィン・ハッブルが
「ハッブルの法則」を発表してから。
すべての銀河が私たちから遠ざかり、
しかも、遠くにある銀河ほどより速い速度で遠ざかる。
つまり、宇宙は光より速い速度で膨張している。
そのため、すべての星の輝きが地球に届かないのだ。
夜空の暗さ。
それはこの瞬間も宇宙が膨張を続けていることの
たしかな証なのである。
宇宙のはなし⑥「小柴博士」
「この世に摩擦がなければどうなるか?」
こんな問題を出されたら、あなたはなんと答えますか?
ニュートリノの検出による多大な功績で、
ノーベル物理学賞を受賞した、小柴昌俊博士。
博士が大学院時代、高校の試験に出題したのが、
「この世に摩擦がなければどうなるか?」という問題。
答えは、「白紙の答案」。
摩擦がなければ、鉛筆の先が滑って答えが書けない。
ゆえに白紙の答案が正しい解答なのだと言う。
科学者の頭はやはり型破りである。
宇宙のはなし⑦「アルベルト・アインシュタイン」
宇宙観測の歴史は、
17世紀の初めに、ガリレオ・ガリレイが
手づくりの望遠鏡を覗いたことがはじまりと言われている。
それ以来、人間は地球という小さな星の中から
広大な宇宙を眺め、その謎を突き止めようとしてきた。
相対性理論を完成させ、
「現代宇宙論の生みの親」と呼ばれる、
アルベルト・アインシュタインは言う。
この宇宙でもっとも理解不能なこと、
それはこの宇宙が理解可能であることだ。
宇宙のはなし⑧「カール・セーガン」
作家、カール・セーガン。
地球外生命体との接触を描いたSF映画『コンタクト』の原作者。
彼はフィクションの中だけでなく、
現実の世界でも宇宙との交信を試みた。
1972年、セーガンは地球と人類に関する情報を金属板に描き、
木星探査機パイオニア10号の機内に取り付けた。
それは人類が初めて送った宇宙への手紙だった。
残念ながらセーガンは
その成果を見届けることなく1996年に他界する。
だが、木星の探査を終えたパイオニア10号は、
地球から53光年離れた恒星アルデバランに向かって
現在も旅を続けている。
私たちの知らない誰かに見つけられるために。