2011 年 3 月 26 日 のアーカイブ

八木田杏子 11年03月26日放送


ベートーヴェンとエリーゼとテレーゼ

「エリーゼのために」という曲は、もともと
「テレーゼのために」だったという説がある。

エリーゼとは誰かについてはいろいろ取り沙汰されているが
ベートーベンの主治医の姪である
テレーゼ・マルファッティという説が有力だ。
ベートーベンは40歳のときに
18歳のテレーゼに結婚を申し込んでいるし
なによりその楽譜を所持していたのが
テレーゼ・マリファッティなのだから。

ではなぜ、テレーゼがエリーゼに?

悪筆で名高いベートーベンが書いた作品のタイトルは
ドイツで筆跡鑑定をしてみた結果
エリーゼともテレーゼとも読めるそうなのだ。
ベートーベンは悪筆に屈することなく
女性に手紙を送り、曲をささげている。

ところで、ベートーベンの生涯にはもうひとりのテレーゼがいる。
こちらは伯爵令嬢のテレーゼ・フォン・ブルンスウィク。
美しく才気にあふれ多くの人々を魅了したといわれる女性だ。

こちらのテレーゼに捧げられた曲は
「ピアノソナタ24番 テレーゼ 作品78」というタイトルで
幸いに名前も読み間違えられずにテレーゼのままだ。

のびやかでエレガントなその曲は女性が弾くのにふさわしいが
少女たちの人気はエリーゼに傾いている。


鴻上尚史の孤独

ひとりぼっちにならないために、
ケータイを握りしめる、

孤独にならないようにしても、
ふと一人になったときに、不安はこみあげてくる。

劇作家の鴻上尚史は、
孤独と向き合う方法を教えてくれる。

人間は、一人でいるときに成長するのです。

一人は少しも悪くない。恥ずかしくない。みじめじゃない。
一人になりたいと思って一人でいることは、
とても快適なことだ
とあなたは、胸を張って、自分自身に言えばいいのです。

そう思うことで、
無理に話を合わせて愛想笑いをしなくなり、
30人に一人の本当の味方に出会えると、鴻上は語る。

明日は日曜日。

携帯電話を忘れて、
一人でふらっと出かけてみませんか。


フジ子・ヘミングの音色

60歳を越えてから、
ピアニストとして活躍のときを迎えたフジ子・ヘミング。

天才少女と呼ばれ、
日本で脚光を浴びていた彼女は
留学のときに国籍がないことが発覚。

その後、難民としてベルリンに留学し
優秀な成績をおさめたが
最大のチャンスを前にして聴覚を失ってしまう。

突然中断されてしまった演奏家としてのキャリア。
しかしフジ子はあきらめなかった。
働きながら耳の治療をつづけ
ピアノ教師の資格を得た後は、
ピアノを教えながら演奏活動を再会するようにもなった。

一流演奏家への道は
二度と開かれることはないはずだった。
しかし、1999年
フジ子・ヘミング67歳のときにチャンスがやってきた。
数年前に日本に戻っていた彼女のドキュメントが
テレビ番組として放送されたのだ。

その番組のなかでフジ子・ヘミングはピアノを弾いた。
その姿にも音にも
フジ子・ヘミングの人生がにじんでおり
それ見て涙した多くの人がフジ子のファンになった。

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中村直史 11年03月26日放送


あの人の師/新藤兼人

「裸の島」「午後の遺言状」など、
世界に誇る作品を送り出してきた
映画監督、新藤兼人(しんどうかねと)。

彼には、師と仰ぐひとりの映画監督がいた。
その名は溝口健二。
巨匠と呼ばれるその映画監督の人となりを描きだそうと、
新藤は関係者にインタビューを重ね、それを一本の映画にする。
映画に入りきらない分は、一冊の本となった。
タイトルは「ある映画監督の生涯 溝口健二の記録」。

女優やカメラマンなど
親交の深かった36人の証言から
浮かび上がる溝口健二像は、一言では言い表せない。
崇拝され、恐れられ、親しまれ、嫌われ、喜ばれた。

そんな、一言では言い表せない人だったからこそ、
型にはまった、安易な人間の描き方を決してよしとはしなかった。
溝口はこんな言葉を残している。

悲しくて滑稽で、それでほほえましくて、しかもそれでいて
どこか腹だたしい話を、その人間を通してまるごと描くんだ。

そうして撮られた溝口のフィルムに、
若き日の新藤兼人が見たものは、
「映画」ではなく
「真実としかいえないもの」だった。

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三島邦彦 11年03月26日放送


あの人の師/吉川英治

天下をとる人は、誰を師とするのだろう。
作家、吉川英治の答えは、
豊臣秀吉の一生を描いた『新書太閤記』に書かれている。

どんな凡下な者でも、つまらなそうな人間からでも、
彼は、その者から、自分より勝る何事かを見出して、
そしてそれをわがものとして来た。

小学校を中退して以来、職を転々とし、
独学で己の小説を磨いた吉川英治もまた、
出会うすべての人が師であった。
我以外皆我師(われいがいみなわがし)、
吉川が好んで色紙に書いた言葉である。

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