サラ・ベルナール
19世紀の最も有名な女優であり、
世界最初のスター、サラ・ベルナール。
女性の脆さを巧みに表現した彼女の声は「黄金の声」と称され、
レストランのメニューを朗読しただけで観客を感涙させた、
という伝説があるほどだ。
サラは希代の美声を武器に、喜劇から古典悲劇まで幅広く活躍し、
まだマスメディアが発達していなかった時代にもかかわらず、
アメリカでも熱狂的に迎えられた。
そんなサラが初めてニューヨークに行ったときのこと。
彼女にインタビューした新聞記者が、
「この前、ブラジルの皇帝が来た時もこれほどの大歓迎ではありませんでした」
と告げたとき、サラはこともなげにこう言った。
だってあちらはただの皇帝でしょ?
マリア・カラス
ドラマティックな歌唱法で
ディーヴァ「女神」とまで呼ばれたソプラノ歌手、マリア・カラスは
無名時代から自分の歌に不遜なほどの自信を抱いていた。
ニューヨークのメトロポリタン歌劇場の
専属歌手オーディションに落ちたときも、
いつかきっとメトロポリタンの方からひざまずいて
私に歌ってくれと言う日がくるでしょう。
と言い放ったほどだ。
世界一のプリマドンナとして名声を博してからは、
公演を勝手にキャンセルする、記者をひっぱたくなどの行動が、
しばしばスキャンダラスに取り上げられた。
彼女の歌声は世界中で愛されたが
彼女の言動は愛されたとは言えなかった。
それでもマリアは平気だった。
歌いさえすれば、誰だって私のことを好きになってくれるわ。
マリア・カラスにとって
自分の性格など、才能の前では大した問題ではなかった。
ファーギー
グラミー賞を3度受賞し、
ビルボードで26週連続1位の歴代最長記録を持つ、
4人組のミクスチャーバンド、ブラック・アイド・ピーズ。
紅一点のヴォーカリスト「ファーギー」は、
いまや女優やファッションアイコンとしても大活躍だが、
ブラック・アイド・ピーズと出会ったときは
ドラッグ中毒から立ち直ったばかり。
一文無しで仕事をさがしている状態だった。
しかし彼女の加入後、バンドは次々とヒットを飛ばし、
大ブレイクを果たす。
後に7歳の頃からの夢だったソロアルバムを出したとき、
彼女はリリース記念パーティで他の3人のメンバーに、
感謝の言葉を述べた。
私を信じてくれてありがとう。
郊外に住んでるただの女の子から何かを見つけてくれて、
理解してくれて、本当にありがとう。
どんな才能にも、運と縁と理解者が必要だ。
トニー谷
赤塚不二夫の漫画「おそ松くん」に登場する、
「シェー!」で有名な「イヤミ」というキャラクターのモデルは
コメディアンのトニー・谷。
レディース・アンド・ジェントルメン!
アンドおとっつぁん、おっかさん。
グッドモーニング、おこんにちわ。
グッドイブニング、おこんばんわ。
そろばんを楽器のようにかきならし、
「トニングリッシュ」と呼ばれる妙な英単語を混ぜた独特の言葉で、
世の中に毒を吐きまくった。
攻撃の矛先は共演者だろうと客だろうとおかまいなし。
ステージだけでなく、楽屋や普段の生活でも嫌われ者を演じ続けた。
彼は、敗戦ですべての価値観が崩壊した当時の社会を象徴する存在だった。
その異端の芸は人気を博したが、あくまでもキワモノ扱いで、
どう受け止めていいのかわからない人も多かった。
そんなある日、事件が起こった。長男が誘拐されたのだ。
営利目的であったが、犯人は犯行の動機を
「トニー谷の、人を小バカにした芸風に腹が立った」と語った。
谷はテレビで犯人に息子を返すよう涙ながらに訴えた。
最愛の息子の無事をただ無心で祈る父親の姿だった。
長男は無事救出されてから
トニー・谷が世間に毒を吐くことは二度となかった。
アルフレッド・ヒッチコック
サスペンスとスリル。
「ハラハラドキドキ」を意味する、
この2つの言葉の違いをご存じだろうか。
サスペンス映画の巨匠アルフレッド・ヒッチコックはこう考える。
乗るべき汽車の時間に間に合うかどうかと必死に駅に駆けつける。
これが、サスペンス。
フォームに駆け上がり、発車間際のその列車のステップにしがみつく。
これが、スリル。
なんと見事な答だろう。でも、それにはこんな続きがある。
ああよかったと一安心して座席に落ち着き、
ふと考え直してみると、
これは自分の乗るはずの列車ではなかった、と悟る。
その一瞬が、ショック。
さすが巨匠。見る人を「ドキドキ」させるだけでなく、
「衝撃」の結末までぬかりなく用意しているとは。
カイ・セグラー
バンジージャンプとスポーツカーの違いを尋ねられたら、
あなたは何と答えるだろう。
ドイツの自動車メーカーBMWの、
レース用車両を開発する「M」社の社長、
カイ・セグラーの考えはこうだ。
バンジージャンプなんて、退屈な遊びだよ。
そこには飛び降りるスリルはあっても、自分で操る楽しみはない。
でもスポーツカーには、真のスリルと、それを克服する歓びがある。
若い人たちのスポーツカーへの情熱にもう一度火をつけたい。
そう語るセグラーは今年56歳。
西原理恵子
これまでに出版した本は100冊を超える人気漫画家、
西原理恵子は高知県の小さな漁村で生まれた。
最初の父はアルコール依存症で、彼女が生まれた直後に離婚。
二人目の父は、ギャンブルで多額の借金をつくり自殺。
貧しくギリギリの生活に疲れた母と
窓ガラスが割れた戦場のような家を見て彼女は思った。
男に頼るとロクなことがない。
自分で稼ぐ。そう決意した彼女は、
大学3年の時にはすでに連載漫画をスタートさせた。
貧しさへの恐怖から寝る間もなく働き続けた。
ある日、そんな彼女にも転機が訪れた。恋をしたのだ。
仕事で知り合った戦場カメラマンと、32歳のとき結婚。
しかしその夫もまた、
世界の過酷な現実を見つめ続けるストレスから、
重度のアルコール依存症に陥り、苦しんでいた。
結局、離婚はしたけれど
一度好きになった人を嫌うのは難しいと献身的に介護を続け、
回復の兆しが見えて復縁を果たしたその時、
夫はなんと癌のためこの世を去ってしまった。
しかし西原理恵子は
生まれ変わってもまた同じ人生がいいと言う。
誰かに幸せにしてもらえたらうれしいだろうけど、
でもそれって退屈でしょう。
いろいろあったけど、いろいろあるから人生楽しいんだから。