三國菜恵 11年5月22日放送
生き物のはなし/いとうせいこう
ベランダで、花を育てている。
けれども、うまくいかず
ときには、枯らしてしまうこともある。
クリエイター・いとうせいこうは
そんな失敗を繰り返すひとり。
けれども彼はその失敗を、とても大事に考えている。
園芸は植物を支配することではないのだ。
むしろそれが出来ないことを教えてくれるのである。
生き物のはなし/高村光太郎
作家としてはもちろん、
彫刻家としても数多くの作品を残した
高村光太郎。
彼は、ある生き物のことが
特別好きだった。
それは、セミ。
彫刻のモチーフとして
すばらしい姿をしている
と考えていたようで、
セミを見つけにいくことを
「モデル漁り」、なんて言い方をしていた。
加えて、やかましく聞こえがちなあの声も
高村にとっては愛らしく聞こえていたらしい。
あの一心不乱な恋のよびかけには
同情せずにいられない。
まっすぐなセミの声は、
まっすぐな心をもつ高村に、心地よく聞こえていたようだ。
ほったらかしにしていたシクラメン… 「ピアス」という名のそのシクラメンは、純白な花びらの先をまるで少女が頬を染めるように薄ピンクに縁どり、今年もいつの間にか葉を増やし花をつけて、軒下のベランダから家の中を覘いていました。あの冬も越えて。季節はずれに。
花は寡黙…だから、なおいとおしく感じられるのでしょう。
生き物に魅せられ、励まされ、ときに枯らしてしまった罪の重さにたじろぎ、でもまた花を、生き物を隣りに置かずにはいられません。一人はさびしいから。
今日、丹沢に上りました。山は今、春から夏への準備が急ピッチです。若芽から若葉へ、谷をわたる風、鳴き方のおぼつかない鳥、すべてが瑞々しい。支配のないものたちに出会い力をもらえたような気がします。
まっすぐな心をもてるような気がします。
「生き物のはなし」再び楽しみにしています。