中村直史 11年12月04日放送



男たちは旅をする/咸臨丸の水夫たち

咸臨丸と聞いて、何を思い浮かべるだろう。
咸臨丸。江戸幕府の威信をかけて、太平洋を横断した船。

真っ先に浮かぶ名前は、艦長勝海舟。
同乗者に福沢諭吉、ジョン万次郎。
いずれも、帰国後日本の礎を築いた人々だ。

けれど、日本に帰れなかった者たちもいた。

苗字も持たぬ咸臨丸の水夫たち。
長崎出身の峯吉(みねきち)、香川出身の富蔵(とみぞう)、
そして源之助(げんのすけ)。

夜明け前の日本の夢を乗せて運び、
旅先で静かに息を引き取った3人の水夫。
歴史の試験に出てくることはないけれど、
文明開化の立役者である。



男たちは旅をする/司馬遼太郎

「アメリカに行きませんか」
新聞社の企画として、アメリカの紀行文の依頼を受けたとき、
司馬遼太郎は「とんでもない」と思った。
自分にとってのアメリカは映画や小説の中で十分。
安易に知らない国に出かけるのはどうも気が進まない。
けれど、友人のつぎの一言で、なぜか気持ちが変わる。

 アメリカという国がなければ、この世界はひどく窮屈なんでしょうね。

司馬遼太郎は思った。
日本をふくめ、世界の人々はその国独自の「文化」に
いつの間にか、がんじがらめになっている。

そんな「文化」の対極にあるのが、アメリカが生み出している「文明」なのではないか。
ジーンズしかり、ハンバーガーしかり、ポップミュージックしかり、
どんな文化にも受け入れられるフォーマットが「文明」。
アメリカは歴史上久々に現れた巨大な文明発生装置だ。

興味がわいた。
少しだけ安易な気持ちになれた。
行ってみるか。

その心変わりがあったおかげで、私たちは、
名著「アメリカ素描」を読むことができる。

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