2014 年 4 月 12 日 のアーカイブ

佐藤理人 14年4月12日放送

140412-01

ヘンリー・ダーガー① 「サバイバル」

41年前の春、一人の老人がこの世を去った。

いつも不機嫌でみすぼらしく、
たまに口を開けば天気の話ばかり。
身寄りも友人もいない彼の死を悼む者はいなかった。

遺品を片付けにアパートに入った大家は
トラック二台分のゴミを捨てた後、
旅行鞄の中から奇妙なものを見つけた。

それは15巻に及ぶ壮大な物語と、
300枚の巨大で色鮮やかな挿絵。

花模様の表紙には金色の文字で

 「非現実の王国で」

と記されていた。

老人の名はヘンリー・ダーガー。
40年に及ぶ彼の秘密のライフワークは
世界最長の小説であり、
アウトサイダーアートの傑作として名高い。

ダーガーにとってアートとは、その語源である

 「生き延びる技術」

そのものだった。

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佐藤理人 14年4月12日放送

140412-02
Insignifica
ヘンリー・ダーガー② 「アウトサイド」

芸術を世間の評価や値段で判断する人に
ヘンリー・ダーガーの良さはわからない。

「非現実の王国で」という名の通り、
彼の絵には様々な異形の生き物が登場する。

極めつけは、男性器を生やした裸の少女たち。

 私は少女の姿をした少年、
 少年の体をした少女であり続けたかった。

ダーガーは男女の性差を知らなかった。
いや同性愛者だった。そんな議論は無意味だ。

正式な美術教育を受けてない人による芸術を

 アウトサイダーアート

と呼ぶ。

それは常識の檻から脱出した人だけが、
見ることを許された新しい世界の景色。

アートの外側にいるのは
きっと私たちの方だ。

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佐藤理人 14年4月12日放送

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. SantiMB .
ヘンリー・ダーガー③ 「ホットライン」

かつて天国につながる
ケータイを発明した男がいた。

アウトサイダーアートの傑作
「非現実の王国で」の作者ヘンリー・ダーガー。

81年の生涯を孤独と貧困にまみれて生きた
彼のたった一人の友達。それは、

 神様

彼は毎日欠かさず教会に通い、辛い現実を訴えた。
悲しいことが起きると、
絵の中で少女たちを残酷に殺した。

描くことは話すこと。彼にとって絵は
現実逃避の手段であるだけでなく、
捧げ物であり、怒りを表現する言語だった。

スケッチブックという液晶画面の中で、
彼は絵文字を駆使して神との通話を試みた。

一度くらい返信は来たのだろうか。

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佐藤理人 14年4月12日放送

140412-04
Billa
ヘンリー・ダーガー④ 「ギフト」

体が小さすぎて軍隊には入れなかった。

まともな仕事にもつけず、
恋人も友人もできなかった。

だから男は絵を描いた。
自分が空想した理想の世界の絵を。

その中で彼は、
子供を奴隷にする邪悪な国の大人から
少女たちを守る反乱軍のリーダーだった。

アウトサイダーアートの傑作、
「非現実の王国で」の作者ヘンリー・ダーガー。

40年間、ボロボロのアパートで
夜な夜な紡ぎ続けたちっぽけで広大な世界。
王国は最後、創造主である彼が起こした
巨大な竜巻に破壊されて終わる。

思い通りに生きられる人は少ない。
だから神は人間に
想像力を与えたのかもしれない。

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