ヘンリー・ダーガー① 「サバイバル」
41年前の春、一人の老人がこの世を去った。
いつも不機嫌でみすぼらしく、
たまに口を開けば天気の話ばかり。
身寄りも友人もいない彼の死を悼む者はいなかった。
遺品を片付けにアパートに入った大家は
トラック二台分のゴミを捨てた後、
旅行鞄の中から奇妙なものを見つけた。
それは15巻に及ぶ壮大な物語と、
300枚の巨大で色鮮やかな挿絵。
花模様の表紙には金色の文字で
「非現実の王国で」
と記されていた。
老人の名はヘンリー・ダーガー。
40年に及ぶ彼の秘密のライフワークは
世界最長の小説であり、
アウトサイダーアートの傑作として名高い。
ダーガーにとってアートとは、その語源である
「生き延びる技術」
そのものだった。