村山覚 14年6月29日放送
A lover of dogs – 菊池寛
菊池寛。
大正から昭和初期に活躍した小説家であり、実業家。
そんな彼が小学生向けの文学全集で『フランダースの犬』の
日本語訳をしていたのをご存知だろうか?
その一部分を紹介しよう。
おじいさんと子供の親切な心が分ると共に、
パトラッシュの心の内には、生れてはじめて
愛というものが、非常な力で湧き上ったのでした。
そしてその愛は、その後一生、パトラッシュが
死ぬまで、一度も鈍ったことはありませんでした。
この和訳の7年後には『私の犬達』というエッセーも
書いている。書き出しはこうだ。
僕は、愛犬家と云うほどではないが、
犬は好きな方である
「犬は好きな方」と自称する菊池寛はブルテリア、
ポインター、柴犬、マルチーズ、グレイハウンド、
シェパードと様々な犬と共に暮らした。
特に気に入っていたのはグレイハウンドだった。
川端君は「この犬は鼻の黒くないのが欠点だ」
と言うがそんなことは気にならない。
どこか人間に似ていて、とても人懐っこい犬である。
雨が降ったら家に上げる。
万年筆を何本も噛み砕かれてしまった。
競馬・麻雀・お金などに関する破天荒なエピソードが多い
菊池だが、こんなに犬好きだったとは。『私の犬達』には
こんな一文もある。
妻は「家を建てるか、犬を飼うのをよすか」と
二つに一つを選べと、自分に迫るのである
家と犬を天秤にかけるなんて…
立派な愛犬家だと思いますよ、菊池先生。