上遠野茜 15年5月10日放送
母を生きた人 石川啄木の母・カツ
石川啄木が母・カツのことを詠った、
あまりにも有名な歌がある。
たはむれに母を背負ひてその余り軽きに泣きて三歩あるかず
ずっと変わらないと思っていた親が
ふとした瞬間、急に年老いて感じる。
そんな経験をした人は少なくないはずだ。
父親が職をなくして以来、
生活苦から家族を救えないままでいた啄木。
そのやるせなさは、人一倍だったろう。
年老いた母を想うその普遍的な感情は、
やがて世界中の言葉に翻訳されて詠い継がれている。
そんな天才歌人が最後まで願っていたこと。
それは、平凡な親孝行だった。
わが母の死ぬ日一日美(よ)き衣を着むと願へりゆるし給ふや
私の母が死ぬその日一日くらい、美しい服を着よう。
そう願うことをどうかお許しください。