茂木彩海 15年6月28日放送
cyclonebill
お米の話 隆慶一郎の握り飯
脚本家である隆慶一郎は小学生のころ、
夏休みになると毎年一人で長野市の祖父の家へ帰郷していた。
滞在中よく山へ登っていたのだが
道なりに登るのも飽きてしまい、大胆に林を分け入ってしまったある日。
ふと気づけばあたりはうっそうと茂る森の中で、
帰り道などまったくわからない。焦る少年に雨まで打ち付け、不安をあおる。
ポケットを漁ると昼に食べ残した握り飯がひとつ。
一口だけ噛み締め、もったいないので何度も噛んでいると、
米が甘いことをはじめて知った。落ち着きを取り戻し、
なんとか知っている道にたどり着いたのは夜も深くなったころ。
隆は言う。
うまい米とうまい味噌汁があれば何もいらない。
これはこの時の迷子の後遺症にちがいない。