スキャンダル文学史 漱石、最後の恋
大正四年の春だった。
京都で療養中の夏目漱石は、
お茶屋の女将、磯田多佳と恋に落ちた。
「晴れたら梅を見に北野天満宮へ行きましょう。」
交わした約束は果たされることなく、
鴨川をへだてた祗園の多佳に向け、
漱石はこんな句を詠んだ。
春の川を隔てゝ男女哉
稀代の文豪にしては、
あまりにストレートがすぎる。
翌年、漱石はその人生に幕を閉じた。
スキャンダル文学史 漱石、最後の恋
大正四年の春だった。
京都で療養中の夏目漱石は、
お茶屋の女将、磯田多佳と恋に落ちた。
「晴れたら梅を見に北野天満宮へ行きましょう。」
交わした約束は果たされることなく、
鴨川をへだてた祗園の多佳に向け、
漱石はこんな句を詠んだ。
春の川を隔てゝ男女哉
稀代の文豪にしては、
あまりにストレートがすぎる。
翌年、漱石はその人生に幕を閉じた。
スキャンダル文学史 らいてう、理由なき心中
明治四十一年、
ある女性の捜索願いが出された。
平塚らいてう。
のちに女性解放運動家となる彼女。
栃木の塩原温泉に
森田草平といるところを発見され、
心中未遂として調べを受けた。
よくある男女関係のもつれかと思いきや
ふたりの間にそれはなく、
理由らしい理由も見つからなかった。
事態をおさめるため
森田の師である夏目漱石は二人に結婚を勧めたが、
その提案をらいてうは一蹴した。
ありきたりはいらない。
らいてうの中には一本通った筋があった。
スキャンダル文学史 谷崎、妻を譲渡す
それは昭和五年のこと。
作家の谷崎潤一郎と妻の千代が離婚した。
そのまま千代は谷崎の友人佐藤春夫と結婚。
新聞はこぞって「細君譲渡事件」と騒ぎ立てた。
話は十年ほど前にさかのぼる。
すでに恋仲にあった千代と佐藤の結婚を
いちどは承諾した谷崎が、間際になり撤回。
激怒した佐藤は谷崎と絶交した。
その後佐藤は別の女性と結婚したが離婚し、
再び千代に心を戻した。
佐藤は谷崎に心から詫び、谷崎はそれに応じた。
妻を譲ったという単純な事件ではない。
それは、十年にわたる葛藤をへて、
三人が導き出したひとつの未来だった。
スキャンダル文学史 恋多き女優、岡田嘉子の人生
大正八年、岡田嘉子は
新芸術座で初舞台を踏み女優となった。
座員の服部との間に一児をもうけるも、
俳優の山田と恋仲になった嘉子は、
山田の煮え切らない態度に対しある行動に出る。
映画「椿姫」で相手役を
つとめた竹内と失踪したのだ。
その後二人は結婚するが、
嘉子はまたも事件を起こす。
演出家の杉本と手をたずさえ、
樺太の国境を越えたのである。
駆け落ちと同時に亡命したふたりは、
別々の監獄に収監され二度と逢うことはなかった。
十年の服役ののち、
嘉子はソ連で再び演劇の仕事についた。
晩年、嘉子はある事実を知る。
杉本は亡命直後に、銃殺されていた。
スキャンダル文学史 白蓮、恋の脱走劇
望まぬ結婚だった。
炭鉱夫から巨万の富を築いた伝右衛門に嫁いだ、
白蓮こと柳原燁子。
財はあっても文化的喜びのない暮らし。
それでも伝右衛門を愛そうとした
燁子の気持ちは、幾度も裏切られた。
自分は「華族出身の美人を嫁にした」と自慢したい
夫の道具にすぎないのだと悟ったとき、
かたわらには七つ年下の青年、宮崎龍介がいた。
龍介のもとに走り妻となった燁子は歌人として、
女性を救う活動家として息を吹き返す。
残された夫、伝右衛門の逸話も美しい。
「一度は惚れた女だから」と、
罪に問うことなく燁子を許したという。
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