小野麻利江 19年3月31日放送
畑のはなし 秋田の老農・石川理紀之助
幕末から、明治・大正にかけて。
日本全国には「老農(ろうのう)」呼ばれる
農業指導者が何人も存在し、
農村の更生や農業の振興に生涯を捧げていた。
秋田の老農として知られている人物の一人が、
石川理紀之助(いしかわ りきのすけ)。
農村の土壌を調査して
土地ごとに適した作物の指導を行った彼は、
毎朝3時に掛け板(かけいた)を打ち鳴らして
村人たちを眠りから起こし、
まだ夜が明けきらないうちから
農事に専念するよう促したという。
ある猛吹雪の日の、午前3時。
理紀之助が普段通り掛け板を鳴らすと、妻が言った。
「吹雪の朝に掛け板を打ったところで誰にも聞こえない。
ましてこの寒さでは誰も起きて仕事などしないだろう」
すると、理紀之助はこう答えたという。
この村の人々のためだけに、
掛け板を鳴らしているのではない。
ここから500里離れた九州の人々にも、
500年後に生まれる人々にも聞こえるように打っているのだ
日本の田んぼや畑には、
先人たちのひたむきな想いが埋まっている。