藤本宗将 14年4月13日放送

140413-03

ヘンリー五世と靴の聖人

キリスト教にはさまざまな聖人がいるが、
そのなかに「靴を司る」聖人がいる。
聖クリスピンと聖クリスピニアンという双子の兄弟で、
靴づくりをしながらキリストの教えを広めていた。

だから靴づくりの街イギリス・ノーザンプトンでは
聖クリスピンの祝日は、特別な日だ。

だが聖クリスピンの名をいちばん有名にしたのは、
シェークスピアの『ヘンリー五世』だろう。

フランスとの戦いを前に
イギリス国王ヘンリー五世が行った
「聖クリスピンの祝日の演説」は、
さまざまな小説や映画でも引用されている。

長い遠征に疲れ切った兵士たち。
対するフランス軍の兵力は3倍。
それでも王はこう呼びかける。

 今日はクリスピンの祝日だ。
 きょうを生き延びて無事に祖国へ帰れた者は、
 この日が話題になるたびに自分を誇らしく思うだろう。
 そして安らかな老後を迎えられた者は、
 前夜祭のたび人々に言うだろう。
 「明日は聖クリスピンだ!」
 そして袖をまくって古傷を見せながら言うのだ。
 「この傷は、聖クリスピンの日に受けたものだ」と。

この演説を聞いた兵士たちは奮い立ち、
イギリス軍は劣勢を跳ね返して勝利を収めた。

あなたがもし困難に立ち向かうときは、
靴を見て思い出すといい。
あなたの拠って立つ場所は、
自分自身の足なのだということを。

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