道山智之 14年10月26日放送
濱田廣介 5
童話「泣いた赤おに」の作者、
濱田廣介。
彼の娘が回想している。
小学生のころ、一緒に歩くと、
父が、路上に輪を描いて落ちている針金や、
長い棒切れなどを見つけて、すぐに拾い上げ、
道端によけるので、私は、その度に、気恥ずかしい思いがした。
よそゆきの洋服を着てお澄ましの気分で歩いている時も、
それは同じであった。
(中略)
父は一度も、傍らの私たちに、「拾いなさい」と教えたり、
させたりはしなかった。
ただ、ひょいと、かがんで拾い上げ、
道端によせて、
手の汚れを叩くのだった。
道を走ってゆく子どもたちが、
転んだりしないように。
80年の生涯を童話にささげた男の、
スッとのびた背筋が目に浮かぶ。
これが、「グリム童話」「アンデルセン童話」と並び
「ひろすけ童話」と称される作品群を書いた男の、
なにげない日常であった。